「こんなポルシェがあったら」という顧客の夢を実現する|HEIDNICが創りだすポルシェ

Tomonari SAKURAI

フランスにもポルシェを扱うディーラーやガレージは数多くある。その中でもレストアの質や“レアもの”でもっとも注目したいのが「Serge Heitz」だ。何年か前のレトロモービルで73RSのポルシェが2台だけ作り出したライトウェイトモデルを2億円で販売したところ、その希少性から開幕初日で買い手がついた。このように、レアなモデルを見つけだすネットワークとそれを再生する力がある。

その「Serge Heitz」が顧客からのフィードバックも得て、古い車だけでなく、それに現代的な味付けするブランド「HEDONIC」を起ち上げた。車両を顧客の希望に合わせてカスタムする。そうして始まったHEDONICは今回のレトロモービルで旧車をカスタマイズしたモデルを登場させた。

1台目は964をベースにしたプロジェクトH000。2018年に始まったこのプロジェクト、ベース車両はあくまでも“ベース”で、ボディなどはほとんどがデザインからやり直してアルミを叩き出し。フランスのクラフトマンシップがもつデザインセンスや、その職人技により完成したのだ。基本的なシャシーだけが残され、ボディのシルエットはタルガを選んだ。

964をベースにクラシックなイメージで生まれ変わらせている。中身は現代風になっているのだ。

エンジンは3.6リッターの250馬力をチューンし、3.8リッターにスープアップ。最高出力は380馬力に達する。RSRタイプを目指したHEDONICの美学で生まれたエンジンだということだ。

HEDONICマジックで380馬力のエンジンになっている。

アルミの加工にこだわり、給油口の形状、バンパーなど複雑な形状を実現。そのこだわりは外装だけでなく内装にも貫かれている。ボンネットを開けるとアルミの美しいラゲッジスペースが現れ、そこにもHEDONICのロゴがあしらわれている。視線を移動するとシリアルナンバーのプレートが。そこにはQRコードが刻印されており、そこにスマホを合わせるとこの車のヒストリーを見ることができる、

シリアルナンバーのプレートにQRコードがあり、ここからこの車のヒストリーをスマホで見ることができる。

キーレスエントリーは当然だが、そのキーにもこだわりを感じる。車と同じシルエットのキー、そしてふたつのキーが収まるボックスまでこのモデルのシルエットが受け継がれているのだ。

付属のキー2つとそれが収まるケース。すべてのこのモデルのシルエットを持たせている。そのケースが置かれているのはフロントのラゲッジスペース。アルミの地が美しい。

コクピットに潜り込む。メーターパネルはアナログなメーターと思いきや液晶になっている。イグニッションをオンにするとそのメーター達が現れる。そのメーターはおとなしく、クラシカルだ。そしてモードをスポーツモードにするとメーターもガラッと変わる。デジタルなのにアナログな色合いを残しつつそれを活かしたデザイン。もちろんスマホホルダーもついている。このモデルはあくまでもシリアルナンバー000。「こんなポルシェがあったら」という顧客の夢を実現するのがHEIDNICなのだ。

普段のメーターパネルはおとなしめのちょっと古めのポルシェをイメージさせる。ちなみに、一番右のアナログ時計は顧客の好きなブランドと連絡を取り使用許可とコラボで文字盤をデザインして作られたワンオフのもの。そういった顧客の好きなものをこの空間に取り入れるのもHEDONICのスタイル。

スポーツモードにするとパネルも変わる。

もう1台は1959年の356AT2 GTベースのものだ。基本的にはオリジナルを維持しつつ細かいところでHEDONICのこだわりをみせている。

外観はオリジナルのまま。ただし、ホイールで見えないブレーキは現代のキャリパーに。そしてシャシーは許可されていて万が一のクラッシュでも耐久性をあげている。

レーシングなバケットシート。アルミのボディに薄いクッションが張り付いているのが目に付く。ところがこのクッションの中の素材は最高級の弾力性を持つもので、実際にこれに体を収めると極上の座り心地が身を包む。クラッチを踏み込みシフトレバーを操作すると、そのシルキータッチとギアが入るときのかっちり感がたまらない。これは癖になる。

アルミ剥き出しで薄いクッション。ゴツゴツ痛そうなバケットシート。ところが高級なクッション材でその座り心地は極上だ。

エンジンも完全にレストアされており、ツインコイルがやはりただ者ではないと感じさせる。ガソリンタンクは当時のGT用の純正オプションの大型タイプ。これだけでもレアものだ。これは是非ドライブしたい。「日を改めて試乗を」と申し込むと、二つ返事で是非乗ってほしいということになった。しかし!やはり初日に売れてしまったのだ。

エンジンはフルレストアされ、GTらしいパワフルで乗りやすいチューニングが施されている。ツインコイルがただ者ではないと静かにアピールしている。

フューエルタンクは当時のオプションの大型のものがつく。

レトロモービルは旧車のイベント、祭典だ。一般的には古い車を維持して今も走らせるというイメージだが、ルノーが自社の旧車を電動自動車として再生するプログラムを発動させたり、このHEDONICのように、ベースとして旧車を使い現代の車に蘇らせつつもその味を残しているような展開も多く見かけるようになった。エポックメイキングなお国柄が現れるフランスの旧車イベント、レトロモービルなのだ。


写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

Tomonari SAKURAI

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