「クーペにもコンバーチブルにもなる車」BMW635CSi『オブザーバー』開発秘話

GF Williams


1台きりのショーカーに乗る


一方、MGA初のショーカーは、1990年代初頭までギブスが所有していた。二人目のオーナーにメールで話を聞いたところ、格納ルーフ機構は、製造からおよそ7、8年あとに、現在の固定式ガラスルーフに交換したという。どうやら、ガタガタいう音やすきま風に辟易したようだ。現オーナーのロバート・ダブスキーは、このBMWを“レストア済み”の状態で購入した。彼はエキゾチカに目がないが、必ずしもヒストリーに惹かれて買ったわけではなく、気兼ねなく使える6シリーズがほしかったからだ。購入してから、徹底的に手を加えた。

6シリーズ標準仕様のダッシュボード。1970年代末の傑作だ。

近くで見ると、記憶にあるとおりのE24型6シリーズのシルエットだが、いかにもあの時代を感じさせるモディファイが施されている。とくに、ビスポークの前後スポイラーやサイドスカート、車名のステッカー、そしてセントラ製タイプ6アロイホイールが、1980年代の車であることを告げている。その違和感の程度が絶妙だ。しかし、この車の真の特徴は、乗り込まなければ分からない。インテリアはほぼ標準のままだが、ガラスだけはまったく異なる。頭上は、シルクスクリーンの模様が焼き付けられたガラスルーフだ。太陽光で温室状態になるのを抑えるのが最大の目的だろう。

シャークノーズが6シリーズの目印だ。

黒のレザーとガラスルーフは、暑い日に最適な組み合わせとはいえない。

この日は日差しが強く、気温も上がったので、その目的は完全には果たせていない。内装が黒のレザーなのも足を引っ張っている。この時ばかりは、今も格納式ルーフならよかったのにと思ってしまう。これではバーベキューになりそうだ。では、走りはどうかというと、よくまとまったかつての6シリーズそのままである。しかも、走行距離は1万8000マイルにすぎない。全体に静かな力強い印象で、スロットルペダルを踏み続けて全開にしても、それほど大音量にはならない。年式を感じさせない速さを見せ、5段ギアボックスは、シフトストロークが比較的短い。

スピードはお墨付きの3.5リッター6気筒エンジン。

全体に劇的さはないが、そこがいいところだ。パワーがかかると本当にわずかなアンダーステアを示し、スロットルを閉じるとラインがタイトになる。挑発しない限り、派手にテールを振ることはない。そんな挙動を引き出したいなら、ランオフがたっぷりある場所でトライするのが賢明だろう。間違っても、体勢を崩してみたいタイプの車ではないのだ。立て直すには、電光石火の反射神経が必要だろうという気がする。ありがたいことに、ブレーキはよく利いて素早く減速し、ペダルフィールも豊かだ。

635CSiは重い車だろうとイメージするのは大間違いだ。たしかに重量感はあるが、かつて6シリーズがヨーロッパ・ツーリングカー選手権で3度タイトルを獲得したことを忘れてはいけない。ツーリスト・トロフィーといったビッグイベントでの勝利もあった。明らかにモータースポーツを念頭に置いたモデルではないのだから、目覚ましい戦績だ。このユニークな1台で何より驚かされるのは、ルーズな感じがしないところだろう。メスを入れられたにもかかわらず、きしみやガタつきが一切ない。

変更点が最もよく分かるのは、斜め後方から見たときだ。

こうしたコンセプトカーではよくあるように、実現方法が不確かなことを実現させるとMGAは約束してしまった。実験をやってみた結果、仮説が証明されるとは限らない。それでも、たいてい何かしら学ぶことはあるものだ。今やガラスルーフの車がいかに増えたかを考えてほしい。プロトタイプに付きものの問題も含めて、この忘れ去られた作品には、好奇心をかき立てる力がある。


1982年BMW 635CSi
エンジン:3430cc、直列 6気筒、OHC、ボッシュ製燃料噴射
最高出力:215bhp/ 5200rpm 最大トルク:31.7kgm/ 4000rpm
変速機:前進 5段 MT、後輪駆動
ステアリング:ボールナット、パワーアシスト付き
サスペンション(前):マクファーソンストラット、コイルスプリング、アンチロールバー
サスペンション(後):セミトレーリングアーム、コイルスプリング、テレスコピック・ダンパー、アンチロールバーブレーキ:ベンチレーテッド式ディスク
車重:1480kg 最高速度:228km/h  0-100km/h:7.4秒


編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)
原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA
Words:Richard Heseltine Photography:GF Williams
取材協力:デイヴィッド・グッドウィン(www.goodwin-business.co.uk.)

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) 

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