女性だけのクラシックカーラリー『ラリー・デ・プランセス』|優雅に華やかに、そして力強く

Kazuhiro NANYO


3日目ともなると、明らかにヴァンドーム広場でスタートしたばかりの頃と比べ、プリンセスたちの表情がリラックスし、輝きを増してきた。その笑顔がもっとも弾けるのはやはり、ゴールと同時に彼女たちが、グラスシャンパンを手に受け取った瞬間だ。ブルターニュ地方でサン・マロ隣にあるビーチ・リゾートして知られるディナールのゴールでは、ヒストリックカーから降りてシャンパングラスを傾けるプリンセスたちの姿に、集まった多勢の人々が圧倒されていた。通常のモータースポーツ・イベントのように、競技を終えて表彰式セレモニーで盛り上がるのも一興だが、一日一日を積み重ねるラリーで彼女たちには、無事に辿り着いた毎ゴールすべてが、ドライバーとコドライバーともども、ささやかに祝う価値あるものなのだ。





ちなみにディナールでのディナーは、この界隈の風物であるピュル・マリニエール(マリン風セーター)ことボーダーシャツを全員着用する仮装ディナーとなり、誰もが笑顔で海の幸をふんだんに用いたメニューに舌鼓を打った。プリンセスらは日数分・パーティの数に応じてチームメイト同士で工夫を凝らしつつお洒落するための服を用意しており、主催者の用意したシャトルバンまたはサポートカーが運んでいるのだが、ノルマンディやブルターニュでは、誰もがいの一番に合わせることを考えるアイテム、それがボーダーシャツという符号だった訳だ。



4日目そして最終日のゴールとなったラ・ボールは、ブルターニュの古都ナントにほどなく近い、大西洋を望む別荘地。穂が風になびいて輝く麦畑や、道路とほとんど同じ高さまで迫る湖や池、そしてゲランドやノワールムティエといった海塩の産地ゆえ、塩田が広がる。しかしプリンセスたちを迎えるのは風景だけではない。通過する村々の住人たちの喝采に、車上からプリンセスたちは手をふって応える。





とある村で、買物から戻ってきた老夫婦に尋ねられた。「何事かね?」 ラリー・デ・プランセスが通過する旨を伝えると、お爺さんはすでに群がっていた村人らの観戦の輪に、迷わず加わっていった。すると買物袋を家の中に下ろしにいったお婆さんが戻ってきた。「まぁ、あの人ったらウチの車を車庫に戻しもしないで、何やってるのかしら」 そう言いつつ彼女の手にはちゃっかり、デジカメが握られていた。何歳になっても女性にとっても、素敵な車で旅することは憧れの時間なのだ。







最終日、ラ・ボールでのディナーはホテル・バリエール・レルミタ―ジュ、アールデコ様式の内装が華やかなバンケット・ルームで盛大に行われた。ラリー競技中の、ラフで茶目っ気たっぷりの装いとはうって変わって、ローブやドレスといった華やかな正装に身を包んだプリンセスたち。その美しさは、魔法の解ける時間が近づいてきた儚さというより、母と娘、姉妹、あるいは気の合うパートナーや友人、家族同士で絆を深められた時間こそが貴いと確信している、そういう威厳ある美しさだった。




文・写真:南陽一浩 Words and Photography:Kazuhiro NANYO

文・写真:南陽一浩 Words and Photography:Kazuhiro NANYO

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