日常的に使えるスポーツカー│ジャガーEタイプとポルシェ911の共通点

Photography:Paul Harmer



この911に対して、より伝統的なスペックのEタイプが果たして対抗できるのだろうかとの疑問が頭をよぎる。JDクラシックス社から借用したEタイプは息を飲むほど美しく、コンディションも新品同様だ。1965年シリーズ1の4.2リッターフィクストヘッドクーペ(FHC)で、5080台が製造された。4.2リッターモデルが登場したのは1964年10月のことだ。初期の3.8リッターモデルが抱えていた冷却と電気系の問題が解決され、扱いやすい4段オールシンクロ・ギアボックスになった。
 
JDクラシックスを経営するデレック・フッドはこう話す。「私たちがこのEタイプを見つけたのは15年前で、走行距離はほんのわずかでした。今メーターは1万3327マイル(2万1447㎞)を指していますが、正確な数字です。当社で完全にリビルドしました。世界中のEタイプの中でもベストの1台でしょう。年に1度、点検とフル整備に持ち込まれるたびに、私に売ってくれないかとオーナーに泣きついているんですよ」 このEタイプは僅かな改良を受けている。

まず目を奪われるのは鏡面仕上げの塗装と、寸分違わぬパネルギャップの見事さだが、実はオリジナルより幅の広い5.5インチのワイヤホイールに現代的な205/70 15のエイボン製タイヤを履いている。これだけで、トレッドが狭すぎるというEタイプ唯一の設計上の欠点が大幅に改善されている。
 
ドアは小さく、身をよじらないと乗り込めないが、いったん腰を落ち着けると喜びが湧き上がってくる。うっとりするようなダッシュボード、そこに並ぶ大きなスミス製メーターとスイッチ類。残念なのは、数ある自動車ステアリングの中で最も官能的と言っても過言ではないオリジナルのそれが、アフターマーケットのものに交換されていたことだ。マーカスの911がオリジナルのプラスチック製からウッドリムのステアリングに換えられたことで、ぐっと印象がよくなっていたのとは対照的だ。
 
座る位置は911より明らかに低い。レザーシートは座り心地がよく、目の前には肉感的な長いボンネットが伸びる。大きな4.2リッターエンジンはスターターボタンで静かに始動し、SU製キャブレターのおかげでアイドリングも穏やかだ。ギアシフトは通常のHパターンだ。

ロングストロークの6気筒が発生するトルクは280lb-ft(38.7kgm)だから、期待に違わず楽々と動き出した。低速では、操作するものすべてが911より重く感じる。特にラック・ピニオンのステアリングだが、これは幅の広い現代のタイヤによるところが大きい。このEタイプは非常に静かで上品だが、これは完璧なパネルの"チリ合わせ"の成せる技だろうか。エンジンは遠くで静かに息づいており、にぎやかな911のフラットシックスほど自己主張はしない。Eタイプのほうが300㎏重く、狭い道ではその差を実感させられた。
 
だが、オープンロードに出ると、大きな6気筒が息を吸い込んで勢いよく駆け出し始めた。言い忘れたが、この車にはJDクラシックスのディスクブレーキが4輪に装着されているので制動能力に心配はない。また、彼らの手になるサスペンションのセットアップも巧みなので、コーナーでも正確で安定感が抜群だ。標準スペックのEタイプでも、0-60mphが7秒、0-100mphが16秒で、最高速は145mph(233㎞/h)に達するが、この車はそれ以上に速く、壮大なサウンドを奏でる。
 
ジャガーはいつもそうなのだが、このEタイプも見事に人を欺いてくれた。のんびり走っている間は静かで上品な走りを見せるが、一旦スロットルを踏み込むと牙をむきだして飛びかかるのだ。高速走行での接地感に関しては、少々ナーバスな911より優れている。レースで鍛えられたエンジン。優秀なシャシー。そして、なんといってもその外観だ。これまでに人が思い描いたハッチバックの中で、最も機能的で美しい姿ではないだろうか。
 
さて、そろそろ結論めいたことを記してイグニッションを切ることにしよう。1967年2.0リッターポルシェ911S対1965年ジャガーEタイプ4.2リッター FHCの結論はといえば…。どちらも日常的に使えるスポーツカーで、ヴィンテージカーの楽しみとしても申し分がない。

実績あるレーシングカーの血統を持ちながらも、ロードカーとしての速さを極めている点も同じだ。911のほうがよりモダンで、現代の世界では使いやすいだろう。これ対して、Eタイプには特別な存在感と魅惑的なところがある。どちらか一方のほうが優れていると断言できる決定打はひとつもない。個人的には私はEタイプがほしいと思った。だが、911のほうが素晴らしいという人にも心から共感できる。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Robert Coucher Thanks to Marcus Carlton for his Porsche 911S and to Derek Hood of JD Classics and owner T

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