日常的に使えるスポーツカー│ジャガーEタイプとポルシェ911の共通点

Photography:Paul Harmer



フェリー・ポルシェが下した重要な決断は、3気筒の各バンクに1本のオーバーヘッドカムシャフトというレイアウトを持つ、まったく新しい6気筒エンジンの開発であった。SOHCにすることで高回転、高比出力ながら騒音が抑えられ、将来の発展が望めた。

クランクケースはアルミ製の縦割り式で7個のメインベアリングを持ち、そこに完璧なバランスを取ったクランクシャフトと、綺麗な半球形燃焼室を収めた。これにフィヒテル&サックス製のダイヤフラム式クラッチと5段オールシンクロメッシュ・ギアボックスを組み合わせた。だが、これだけの高いパワーを受けるホイールとタイヤは驚くほど細かった。オリジナルのリム幅はわずか4.5インチで、タイヤサイズは165HR15である。この理由は、トレッド断面形状が丸くて比較的細いタイヤのほうが、サスペンションのキャンバー変化に合致すると考えられたからだ。

このように911は様々な面で356と異なっていたが、ひとつだけ変えてはならない点があった。デザインしたブッツィー・ポルシェはこう語っている。

「ヘッドライトは、私たちにとって顔の中でも大きな役割を担う部分だ。ボンネットは変更しても構わないだろうが、ライトはポルシェらしくあり続けなければならない」
 
こうして911は、356の丸みを帯びたシルエットからよりモダンな外観になったが、ポルシェらしい"顔"はそのまま受け継ぐことになった。それは今に至るまでメーカーの象徴であり続けている。
 
Eタイプが発表された1961年当時、それはほかの星からやってきた未知の乗り物のように見えた。想像してほしい。当時の英国人は、オースティンやアームストロング・シドレー、ローバーなどの古典的な車を見慣れていたのだ。アストンマーティンと比べても、Eタイプはまるで宇宙船だった。ル・マン優勝の実績を持つDタイプのイメージをベースとしていただが、Eタイプのほうが美しく、より先進的であった。

レーシングカーのDタイプより速そうに見えるし、はるかに粋だった。スタイリングはDタイプと同じマルコム・セイヤーの作品であった。トップスピードは150mph(240㎞/h)と謳った。価格はジャガーの伝統で低めに抑えられ、税込みでも2256ポンドと案外手の届きやすいもので、誰もが欲しがった(あのエンツォ・フェラーリまでも)。
 
ジュネーヴの高級ホテル、パルクデゾービーブでメディアに披露されたEタイプは、当代一のエンジニアたちによる傑作だった。特にビル・ヘインズ、ウォルター・ハッサン、ボブ・ナイト、マルコム・セイヤーの貢献は計り知れない。このチームを率いたのが、偉大な商売人にしてデザイナーでもあったウィリアム・ライオンズ卿で、デザイナーやブレーンに対し、社の先進技術をレースの場で鍛えるよう後押しした。こうしてレースで磨き抜かれた専門知識が、すべてEタイプに注ぎ込まれた。数々の試練を乗り越えた実績あるXKエンジンとトリプルキャブレターは、公称265bhpを発揮。

さらに、ル・マン優勝のCタイプで初めて実用化された最新式のディスクブレーキを備え、先進の空気力学も応用。軽量のモノコックタブに、フロントのサブフレームがエンジンとフロントサスペンションを支持した。独立懸架式フロントサスペンションは、横置きウィッシュボーンとトーションバーの組み合わせだった。
 
リアサスペンションは、Dタイプのリジッドアクスルに対して独立懸架を採用した。それは、リアのサブフレームにデフとインボード・ディスクブレーキを収納し、トレーリングアーム、ロワートランスバースリンク、アッパーリンクの役割を果たすドライブシャフト、コイル、ダンパー、アンチロールバーという構成であった。
 
ご存知のように、クラシックカーにはそれぞれに独特の癖がある。その車が面白く個性的であればあるほど、強みと共に欠点も目に付くものだ。



ポルシェ911が当初使用したソレックス製キャブレターにはフラットスポットがあり、ウェバー製に置き換えられた(その後さらに燃料噴射式になった)。だが、なんといっても911で最も悪名高いのはトリッキーなハンドリング特性だ。リアエンジンに加えて、リアサスペンションのスウィングアクスルと細いタイヤも要因だった。これを修正するため、ポルシェのエンジニアは「バンパー補強材」と称してフロントバンパー内に左右各11㎏の錘を装着したが、これはエレガントな解決策とはいえない。

元レーシングドライバーでジャーナリストに転身した故ポール・フレールも大冊『Porsche911 Story』の中でそう述べている。
 
こうして、製造開始から3年でタイヤの幅が広くなり、さらに1969年には、ナーバスなハンドリング特性を緩和するため、ホイールベースを60㎜延長して2271㎜とした。
 

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Robert Coucher Thanks to Marcus Carlton for his Porsche 911S and to Derek Hood of JD Classics and owner T

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