日常的に使えるスポーツカー│ジャガーEタイプとポルシェ911の共通点

Photography:Paul Harmer



Eタイプにも小さな欠点がいくつもあった。1950年代以来のモス製ギアボックスがそのひとつだ。また、911同様、ホイールとタイヤは細かった。ディスクブレーキの効きの悪さは有名だが、これはケルシーヘイズ製のブレーキサーボが60mph(96㎞/h)にならないと効果を発揮しないためだ。さらに、高速でフロントが浮き上がることのほか、独立式のリアサスペンションには、ブッシュがへたると勝手に方向を変え始めてしまうという欠点があった。
 
大半のEタイプが輸出されたアメリカでは、手の掛かるヒーターや電気系システムをオーナーが自分で何とかするしかなかった。また、オリジナルのシートは非常に座り心地が悪く、初期の"フラットフロア"仕様に難なく座ることができるのは小柄な人くらいだ。
 
そうした理由を考慮して、今回の試乗にあたっては最初期の911とEタイプは避け、代わりに最高のドライバーズカーを使うことにした。



1967年の911Sと1965年のEタイプ・シリーズ1 4.2リッターだ。右ハンドル仕様の911Sは現存わずか5台の希少モデルである。初期の"S"は、1967~68年に累計5056台が製造された。その後1969年からはロングホイールベースの燃料噴射式になっている。
 
標準の911とこの"S"との違いは、出力が30bhp向上して160bhpになったことのほか、ウェバー製キャブレター、フックス製鍛造合金ホイールや、前後にアンチロールバーを、4輪にベンチレーテッドディスクブレーキを装備している点が挙げられる。
 
この車はオリジナリティーが高く、決して"レストアクイーンではない"とオーナーのマーカスは話してくれた。「正当で、いじくり回されていないところが特に気に入っている。ヘッドレスト、フォグランプ、内側のドアラッチはオリジナルのままだ。ただ、ステアリングはもっと初期のウッドリムのものに付け替えた」

1967年にイギリスで発売された際は、3556ポンドと高額だった。輸入が少なかったのもうなずける。
 
ネコ科の動物を思わせる車高の低いジャガーと並ぶと、911Sはすっきりと小ぶりに見え、非常にモダンで機能的な外観だ。車内は広々としており、視界も素晴らしい。黒の内張りとバスケット織りで飾られたダッシュボードは機能的で無駄がない。そんなコクピットに花を添えるのが、初期のVDO製メーターの緑色と、マーカスが取り付けた、艶のあるウッドリムステアリングだ。
 
スロットルペダルを半ばまで踏み込んで、ウェバー製キャブレター6基のバタフライバルブを開くと2リッターのフラットシックスが勢いよく目を覚ました。軽いスロットルペダルに対するレスポンスは鋭く、フライホイールの慣性モーメントに抑え込まれる気配もない。身動きひとつしなくてもあふれる生命力。騒々しいエンジンの活力が尻と指先からビリビリと伝わってきて、車と一体になるのを感じる。


 
オフセットしたクラッチペダルは笑えるほど軽い。ドッグレッグパターンだから1速は下に下ろすだけだ。ギアシフトのストロークは長いが、実にスムーズに動く。2リッターの6気筒すべてに燃料が行きわたるには少々空吹かしが必要だが、少し吹かすと勢いよく発進した。このスポーツカーは「軽い」の一言に尽きる。
 
いったん3500rpmを過ぎると、スムーズさを増しながらレッドラインまで一気に駆け上がる。「7000まで上げて」とオーナーが叫ぶ。ステアリングは指先で操れるほど軽く、敏感に反応する。911はエセックスの田舎道を矢のように突き進んだ。ベンチレーテッドディスクブレーキはよく効くから、不安は一切ない。
 
乗り心地はしなやかで、柔らかいと表現してもいいくらいだ。4.5インチのフックス製ホイールに、ミシュランのXASラジアルタイヤを履いているが、細いタイヤを通して、車がきびきびと踊る様が伝わってくる。ドライバーの要求に即座に反応してくれるのだ。ターンインは__素早く、少し攻めるとアンダーステアを示し始めるが、程度は穏やかだ。今回走った限りでは、オーバーステアは微塵も感じなかった。とはいえ、高速でコーナリング中にスロットルペダルを"リフトオフ"すれば、一気にオーバーステアに転じる。
 
この911は高度な計算の元に造り上げられている。それと同時に、独特の癖がちょうどいい程度に残っているから、"よいドライビング"をすると満足感を味わえ、毎回挑戦する楽しさがある。パフォーマンスは現代の基準に照らしても素晴らしい。0-60mph(96㎞/h)は7秒で、100mph(160㎞/h)には16秒で達し、最高速は138mph(222㎞/h)。これだけあれば充分だろう。
 

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Robert Coucher Thanks to Marcus Carlton for his Porsche 911S and to Derek Hood of JD Classics and owner T

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