史上初めてモータースポーツに参加したポルシェ911に試乗

Photography:Andy Morgan



それではいよいよ、オーストリアはザルツブルクのサーキット近郊にあるガイスベルク山にお付き合いいただこう。ここで私はポルシェのイベントの一環として、このモンテ出場の1964年911でヒルクライムにトライするのだ。しかもその前にファルクとリンゲのふたりから話を聞くという夢のようなひと時を過ごす。のちの911は数多く運転した経験があるが、これほど元祖に近いモデルを運転するのは私にとって初めての経験だ。シートに腰を落とすと、よく見慣れているのにどこか少し違って落ち着かない夢の中にいるような感覚に襲われた。

スタートから私はミスを犯した。どういうわけか、予想外に回転を上げてクラッチを滑らせないと動こうとしないのだ。ポルシェ関係者の目の前で恥ずかしいことに、901と呼ばれる初期型の5段ギアボックスがドッグレッグパターンであることを忘れていたのである。私が1速だと思っていたのは2速だったのだ。過去にランチア・フラビアを所有していたのだから、扱いは承知していたのに。

内装と同じくらい顔を赤くしながら発進。これから向かう長い上り坂には、高速コーナーも連続カーブもある。この911は、後継モデルのスピードを思えばとても"速い" とは言えない。だが、いかにもフラットシックスらしい金属質の軽快なサウンドを奏でる。ギアチェンジもおなじみの緩い感触で、回転とうまく合わせていいタイミングで行えばメタリックな滑らかさで入る。ここまでは予想通りだ。



突如パラレルワールドに移行したかのような錯覚に襲われたのは、最初のカーブにさしかかったときだった。ここまでは、路面のキャンバーやうねりにも、おなじみのステアリングを引っ張られるような感じはそれほどなかった。タイヤが細いため、そこまでの力が生まれないのだ。だが、この911のステアリングには別の冗舌さがあった。フロントエンドが非常に軽いために、ほんのわずかなグリップの変化も倍増されてステアリングの重さとして伝わってくるのである。それがフロントで起きていることを詳細かつ克明に描写するのだ。曲がり始めると即座に重みが増し、キャスター角7.75°という非常に大きな数字の意味を思い知らされる。だが、重くなると言っても直進時と比べればということで、ステアリングはクイックな設定にもかかわらず軽快だ。こういう車にはパワーステアリングなど不要だろう。

このフィードバックを味わうと、『Motor』誌の記事に、外部の力が主導権を握ろうとする印象が書かれていたこともうなずける。だが「その印象」は慣れればすぐに消えるとあった。また、特別な状況を除けばリアのコントロールを失う心配はまったくない、とも書かれていた。読者の腕をずいぶんと信頼していたものだ。ただし、こうも指摘している。スロットルを開けすぎた場合、あるいは高すぎる速度で誘発されるリフトオフ・オーバーステアでコーナリングする場合、路面が滑りやすい状況ではその"特別な状況" に陥る、と。

「がけっぷちぎりぎりでドライビングしたいなら油断は禁物。なぜなら通常はロールやタイヤのスキール音、挙動変化など事前の警告があるが、それがほとんどないからだ」と『Motor』誌にはある。いきなりスロットルを閉じるようなまねは論外ということだろう。これが1966年の評価だった。

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation:Shiro HORIE 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:John Simister 

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