『栄光のル・マン』で使われたマックイーンが所有したポルシェ911の物語

Photography: Matthew Howell

映画『栄光のル・マン』で使われたスティーブ・マックイーン所有の911は、1971年にサルト・サーキットを離れてから、オークションハウス、コレクター、そしてメディアの目に留まらずにずっと過ごしていた。

右へ左へと曲がりくねった道を進み、その先の小さな橋を渡る。坂道を抜け、木々が並ぶ道を進み、グレーの911は町へと入る。窓枠に花を飾った小さなレストランの前を通り、教会の広場でポルシェは停まり、ドライバーの視線に切り替わったカメラは花を買う美女の姿を追った。

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再び911は田舎道を進み、きつい右カーブに差し掛かると「ル・マン」の看板が現れ、スクリーンを観る者にやっとその場所が明らかになる。ドライバーは車を停め降り立つ。カメラはスウェードのジャケット、腕時計、そしてブレスレットを身に着けたドライバーを一周し、スティーブ・マックイーンの顔がスクリーンにアップで映し出される……、映画『栄光のル・マン』はこうして始まった。

舞台は1970年代のサルトから30年後のロサンゼルスに移り変わる。私は映画の有名なオープニングの4分間のシーンを回想しながら、元スティーブ・マックイーンの911をロサンゼルスへと走らせた。

車よりもジョギングをしている人のほうが多い日曜日の早朝、私は夢のような現実と向き合っていた。『タワーリング・インフェルノ』を鎮静化し、『大脱走』で有刺鉄線を飛び越え、『ブリット』、『パピヨン』、そして『栄光のル・マン』に主演した、あのスティーブ・マックイーンが所有していた911に私は乗っている。助手席に座る三代目のオーナーのジェシー・ロドリゲスは「もっと踏み込め」といいながら、高速道路へと導いた。



1970年春、ソーラープロダクションの撮影チームがル・マンに入った。ル・マンを舞台にした映画を撮影するためだった。このクルーを率いる主演のマックイーンはフランスでの滞在を快適にしようと911Sを購入し、映画の中でも使用していた。撮影が終わるころにはこの車をたいへん気に入り、ギア比を変更するため一旦シュトゥットガルトに戻した後、カリフォルニアの自宅へと送った。

ところがスティーブは既に1969年式の911を所有していた。それも最新の高級オーディオシステムを搭載したばかりだったので、やむなく"ル・マン911" を売りに出すことにし、ロサンゼルス・タイムズ紙に広告を出した。これにまつわる話を思い出し、ジェシーは苦笑する。

「私が元マックイーン所有の911を購入したの
は生粋の911エンスージアストからでした。彼は1969 年に911Sタルガを買ったそうですが、1971年に盗難にあってしまったのです。そこでまたSを購入しようと考えていたところ、ロサンゼルス・タイムズの紙面で911Sの売り物を見つけたそうです。売り主に連絡して行ってみると、なんとスティーブ・マックイーン自身が出迎えてくれたそうです。彼はさぞ驚いたことでしょうね」

オーディオシステム搭載の911は、現在もマックイーン家にある。いっぽう元マックイーンの"ル・マン911" はその後34 年間にわたって2代目オーナーが所有し、日常の足として使っていた。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.)  Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Nigel Grimshaw

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