史上初めてモータースポーツに参加したポルシェ911に試乗

Photography:Andy Morgan



1964年以前、911には競技に参加した経験はもちろんなかった。RSベースの車で初めてサーキットで活躍し、のちにターボ搭載の935で無敵を誇ることになるなど、誰も想像していなかったのだ。そんな折、広報部長だったフシュケ・フォン・ハンシュタインが、"モンテ"に出場すれば新車911のいい宣伝になると思いついた。こうして前述のようにファルクとリンゲが出走することになったのである。

ファルクはこう振り返った。「911にとって史上初めてのモータースポーツ参戦だった。エントリーできるようホモロゲーションを取得したのは1週間前。傷ひとつ付けずにモナコから持ち帰るだけでいいとフォン・ハンシュタインは言ったが、私たちはきちんとラリーをやりたかった。だからウェーバー・キャブレターに交換した。ソレックスは雪の中で滑り回ったら役に立たなかったから。とにもかくにも、総合5位に入ったよ」

ポルシェは視野が狭いのではないかと思うほどリアエンジンにこだわったが、当時それに疑問を抱くことはなかったのだろうか?「いや、まったく。これが私たちの911だった。リアエンジンでなければならなかったし、そうでなければいいのにと思ったことなど一度もなかった」とファルクは答えた。確かにこのレイアウトでなければ、911の伝説はとっくの昔に消えていただろう。

では、最初期の911は実際のところどんな感触なのだろうか。その子孫はもちろん、同時代のほかのモデルとも比べてみたい。イギリスで最初に911が発売された1965年、ジャガーEタイプ・クーペが2033ポンドだったのに対し、911は3438ポンドもした。それだけ高価なら、最高に堅実で精密な車だと期待されて当然だが、それなら当時のビートルにもあてはまった。911はそれに加えて、望む限り全開で走り続けてもまったく疲弊を感じさせない車だというのが当時の試乗テストの評価だった。

今手元にあるのは、1966年12月3日発行の『Motor』誌に掲載された試乗記事だ。テストしたGVB 911Dは、ちょっとしたコンペティション・ヒストリーを持つ1台で、現存もしている。出力130bhpの1991㏄エンジンで、最高速度は130mph(209.2km/h)、60mph到達時間は8.3秒だった。これは、比較的小型のエンジンにしては素晴らしい数字だ。少々おとなしい外見に対して予想外の好結果と言える。この年ポルシェはトリプルチョークキャブレターを当初のソレックス製からウェーバー製の40 IDAに変更しており、テスト車もその仕様だった。

ソレックス製キャブレターについて触れておきたい。911のフラットシックスに合わせて特別に設計されたコンパクトなもので、バンク当たり3基(スロート)、全部で6基(スロート)搭載。フロートチャンバーがない革新的なデザインを採用し、オーバーフローシステムで燃料が安定的に流れるはずだった。ところが、2500~3000rpmで急激なパワーを求められたときに大きなフラットスポットができるという欠点があったため、ウェーバー製に換えざるを得なかったのである。のちに低出力の911Tでは、安価なゼニス製キャブレターを使った。

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation:Shiro HORIE 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:John Simister 

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事