タイムワープを体験したい方へ 異色の車イベント GOODWOOD REVIVAL 2023

Photo: Ayato Matsumoto, Goodwood


グッドウッド・リバイバルにおけるレースを見ていておもしろい点はマシンだけではない。セーフティーカーがジャガー E-typeであったり、牽引車、積載車、消防車もがクラシックランドローバーであるのだ。思わずそちらに目を奪われる。会場内でシャトルバスの役割をしているのはビンテージトラクターであるし、今はもう街中では見られないクラシックのロンドンバスも走っている。徹底したこだわりに、良い意味でため息が出てしまう。ちなみに、ペースカーであるE-typeが故障で止まってしまったというのは後から知った笑い話である。

ジャガー E-typeのペースカー。

世界一渋い?牽引車。

おしゃべりに華を咲かせる2人の消防士も味を出している。

シャトルバス代わりのトラクターバス。

また、出店エリアで印象的であったのは、クラシック車両のEVコンバートをおこなっているショップが多かったことだ。この数年でイギリスではEVコンバート文化が随分進んだのだと強く感じた。しかし、やはりこのイベントには車の音やにおいを好む人々が集まっているためか近くにいたイギリス人の感想はといえば、「これじゃあ、フェラーリの意味がないよね」。

テスタロッサのEVコンバージョン。

これに関しては、まだ否定派の人々が多い印象は受けたが、人だかりができるほど注目を集めていたのだからある意味で成功だろう。EVコンバート車両があるすぐ近くには、職人たちが手で叩き出してレストアしているアストンマーチン DB5のベアメタルボディが展示してあったりと、車を取り囲む文化の多様性がひとつの場所でハッキリと見える。

EVコンバートされたダットサン。

もうひとつ興味深かったものは、イギリス王室が乗ってきた歴代レンジローバーをずらりと並べて展示していたレンジローバーのオフィシャルブースだ。実にイギリスらしい。ランドローバー Sr.1でオフロード体験というのもおこなっていた。

イギリス王室の歴代レンジローバーがずらり。


さらに、来場者が楽しめるコンテンツとして、へリコプターの試乗、第二次世界大戦時のイギリス空軍の主力戦闘機として使用されていたスーパーマリン スピットファイアのフライトショー、『ミニミニ大作戦』など車が主役となっている映画が放映される屋外シアターも用意されている。家族みんなで来ても楽しめる車イベントというのも珍しい。

スーパーマリン スピットファイア。

屋外シネマ。一部、ドライブインシアターになっている。


ここまでの情報で、車好きにとって最高のイベントであることはお分かりいただけるかと思うが、グッドウッド・リバイバルをユニークなものとして決定づけているものは“ドレスコード”である。ここでは、出場する車の年式に相応しい恰好をする、ということがドレスコードになっている。他にもドレスコードが設定されているイベントは少なくないが、厳格なものではなく近年ではコンクールデレガンスでもラフな格好をして訪れている人も多く見受けられる。正直なところ、グッドウッド・リバイバルもドレスコードに従っている人といない人は半々くらいであろう、と最初は思っていた。しかし、会場に入ればすぐにそんな考えは間違いであったと分かる。

個性あふれるコーディネート。

乳母車さえもクラシックスタイル。

実際の印象としては、8割はドレスコードに従った格好をしており、ラフな格好をしている人が目立つくらいだ。年齢も性別も関係なくレトロな服装の人々が芝生の上で談話を楽しんでいたり、バンドの生演奏に合わせてダンスをしている光景を前にして、ふと一息ついてみると、タイムワープしてきたかのような錯覚に陥る。言葉にするのは難しいのだが、ただクラシックな服を身にまとっているだけでは生まれない空気が流れている。下を向いて、スマホをずっとのぞき込んでいる人が一人もいない。どの光景を切り取っても、全員がこの場を心から楽しんでいる。本当に、この時代を生きているようだ。蒸気を原動力にするアトラクションを楽しむ人々を眺めている中、風に乗って聞こえてくるのはサーキットを走りまわるマシンたちのエンジンサウンド。オレンジに染まった夕焼けが輪をかけて、そこで見える景色、におい、音、すべてが懐かしく思える、不思議なノスタルジーをもたらした。



ふと、気付かされたのは、グッドウッド・リバイバルの主軸にあるテーマは「時代」であること。主役はレーシングマシンたちでなく、それらが活躍していた時代そのものであるのだろう。車のイベントとなると車を見ていないとなかなか時間を過ごせるものでないが、真のテーマの甲斐あってか、ここではただ人々を眺めているだけでも幸せな気持ちになれる。大人たちが子供に戻ったかのように、眩しいほどの笑顔でアトラクションを楽しみ、キラキラした目で車を見つめているのだから。



筆者にとってそのような経験は初めてであり、どこか奇妙な感覚すら覚えた。確実に言えることは、グッドウッド・リバイバルは車イベントという概念を飛び越えたものであること。タイプワープを体験してみたい方は、ぜひ一度足を運んでみることをおすすめしたい。忘れられない思い出となるだろう。



2024年のイベント情報はこちらへ→ https://www.goodwood.com/motorsport/goodwood-revival/

オクタン日本版編集部

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