大躍進中のアストンマーティンF1チーム|その活躍ぶりをパドッククラブで観戦する

Aston Martin, Aston Martin F1, Octane Japan

アストンマーティンのグランプリレース・デビュー。それは、いまから100年以上も前の1922年にさかのぼる。同社の創設者であるライオネル・マーティンは、富豪ルイス・ズブロウスキーの支援を得て、TT1とTT2という2台のレーシングカーを開発。これで1922年のフランスGPに参戦したのが、アストンマーティンがグランプリレースに残した最初の足跡とされる。

2023年のF1フランスGPで、セバスチャン・ベッテルがドライブした1922年アストンマーティンTT1。

このときは、準備不足がたたって2台ともリタイアに終わったが、モータースポーツへの情熱はいささかも冷めることなく、第二次世界大戦後の1955年には世界スポーツカー選手権とF1世界選手権の両方にエントリーできる画期的なマシン、DBR4の開発に着手。1959年にはシルヴァーストンでのノンタイトル戦に出場し、1台が2位入賞、もう1台もファステストラップ記録にくわえて6位入賞と善戦した。

続く1960年には後継モデルのDBR5で参戦するも不本意な結果しか残せず、アストンマーティンはまたもやF1の歴史から遠ざかることになる。

しかし、彼らの野望はその後も潰えることなく、2018年にはまずレッドブル・レーシングのタイトルスポンサーとしてF1に復帰。さらに2021年には既存のF1チームであるレーシングポイントを買収してワークスチームとし、その名もアストンマーティンF1チームと改称。新たなスタートを切ったのである。

当初は体制の立て直しに精力を費やしていたことから期待したような戦績を挙げることができず、2021年と2022年はいずれもコンストラクターズ選手権で7位と苦戦を強いられたが、開発体制を強化した2023年は大躍進を遂げ、新規加入したベテラン、フェルナンド・アロンソの奮闘もあってコンストラクターズ選手権ではなんと4番手につけている(第6戦日本GP終了時点)。しかも、アロンソは今季、7度も表彰台に登壇。うち2度は2位だったので、アストンマーティンにとっての悲願であるF1での優勝は目前まで迫っているといっても過言ではなかろう。



ところで、アストンマーティンはF1グランプリにチームとして参戦しているだけでなく、様々な形でシリーズの振興にも貢献している。そのひとつがセーフティカーとメディカルカーの供給である。

セーフティカーとは、イベント中にコース上で不測の事態が発生した場合、2次アクシデントの発生を防ぐとともに迅速な救護活動や復帰作業を進めるため、コース上の安全を確保するためにFIAが出動させる特別なマシンのこと。いっぽうのメディカルカーは、アクシデント発生時などに、医師や医療機器などを搭載して現場に急行するための車両。どちらも安全に任務を遂行するため、様々な通信機器が装備され、専門の訓練を受けたドライバーによって運用されるもので、F1グランプリの安全を確保するうえではなくてはならない存在といえる。

アストンマーティンは、2021年よりセーフティカーとしてヴァンテージを、メディカルカーとしてDBXを供給することを決定。翌22年からはセーフティカーをF1エディションのヴァンテージに、23年からはメディカルカーをDBX707に置き換えるなどしてアップグレードを図ってきた。

セーフティカー:ヴァンテージF1エディション

メディカルカー:DBX707(写真奥)

そして2000年からセーフティカーのドライバーとして活躍し続けてきたのが、元レーシングドライバーのベルント・マイランダーなのである。
「F1では安全が常にもっとも重要な課題となります」とマイランダー。「そしてサーキット上の安全を確保するうえでは、『サーキット走行でもっとも速いロードカー』をセーフティカーに採用することが非常に重要です。アストンマーティンは、この考え方をよく理解しながら、F1に深く貢献しています」

セーフティカーの解説をするベルント・マイランダー氏。

マイランダーは、ヴァンテージがF1セーフティカーに相応しい特性を得ていると指摘した。
「ヴァンテージのドライバビリティは極めて良好で、サーキットを走っているとき、次にどのような挙動になるかを的確に教えてくれます。これは非常に重要なことで、おかげでドライバーとしてはとても安心できます」

そうした数多くのスタッフに見守られながら開催されたF1日本GPを、今回はアストンマーティンの招待により、パドッククラブから観戦することができた。パドッククラブとは、F1公認のホスピタリティサービスのこと。日本GPでは、パドックビルの2階に設けられたホスピタリティルームで贅沢な食事や飲み物を楽しみながら、F1グランプリの戦いを間近に堪能できる、きわめて贅沢なサービスだ。しかも、テラス席に出れば、眼下で行われるピットストップ作業も目の当たりにできるほか、屋上に上がればメインストレートから1、2コーナーまでを眺めることができる。



ピット作業を真上から眺めることができる。

しかも、ただ観戦するだけでなく、F1チームのガレージを見学するツアー、さらにはF1ドライバーがホスピタリティルームを訪れて直にメッセージを語るドライバーズ・アピアランスなども用意される。まさに、F1グランプリを間近に体験できる、実に貴重な機会といえるだろう。



ガレージを見学するツアーでは、チーム内の無線も聞けるチャンスも!

今回も決勝レース直前にアロンソが登場。レースへの意気込みなどを語ってくれた。「今年は本当に信じられないようなシーズン。サーキットを訪れるレーシングチームやイギリスのファクトリーで働くメンバーが、素晴らしい働きをしてくれている。鈴鹿は大好きなコースのひとつだから、全力で戦うよ」 そう私たちに約束すると、アロンソは足早に立ち去っていった。

その言葉どおり、10番グリッドからスタートしたアロンソは難しいレースを巧みに戦い抜き、8位でフィニッシュ。今季、実に15回目となる入賞を果たした。チームメイトのランス・ストロールは残念ながらリタイアに終わったものの、アストンマーティンの今季の躍進ぶりにはまさに目を見張るばかりだ。

ストロールはリヤウイングが破損し残念ながらリタイアしたが、アロンソは8位でフィニッシュした。

そんなアストンマーティンがさらなる飛躍を遂げるときっかけになると期待されているのが、2026年シーズンから始まるホンダとのパートナーシップだ。今季、全22戦中の第16戦で早くもコンストラクターズ選手権を制したのはレッドブル・レーシング。そして、彼らの強さの一端が、ホンダから供給されるパワーユニットにあることは公然の秘密である。そんなホンダのパワーユニットを、2026年からはアストンマーティンが使うことになるのだ。

「当然、私たちも大いに期待しています」 アストンマーティンF1チーム代表のマイク・クラックはそう語り始めた。
「現在、ホンダはF1界で最高のエンジンを作っていて、これは2026年以降も変わらないと信じています。これが私たちにとってのアドバンテージとなることは間違いないでしょう」

インタビューに応じるアストンマーティンF1チーム代表のマイク・クラック氏。

それだけでなく、アストンマーティンF1チームは最新の風洞設備を建設中のほか、“キャンパス”と呼ばれる新しい開発・生産施設を作っている模様。「アストンマーティンのローレンス・ストロール会長は、なんでも最高のものを手に入れようとする人物です」 そう語るのは、アストンマーティン・ラゴンダ社でチーフクリエイティブオフィサーを務めるマレク・ライヒマンだ。「彼のそうした姿勢がF1での成功に結びつくと信じています」

チーフクリエイティブオフィサーのマレク・ライヒマン氏。

今後のアストンマーティンF1のさらなる飛躍に期待したいところだ。



文:大谷達也 写真:アストンマーティン、アストンマーティンF1、オクタン日本版編集部
Words: Tatsuya OTANI Photography: Aston Martin, Aston Martin F1, Octane Japan

大谷達也

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