1200キロの道のり、パリ-ブレスト-パリ2023にフィクスドギアで挑む!

Tomonari SAKURAI

パリ・オリンピックを来年に控えて、ただでさえ工事の多い8月のパリはさらに酷い状況だ。パリの住人はみんなバカンスに出ちゃってるけど、オーバーツーリストで相変わらず賑わう。メトロや電車もこの時期に集中工事。パリからディズニーランドへの路線が1週間ほど完全に不通になるという来年に向けて、今年は捨て身の大工事があちこちで行われている。

オリンピックを前にパリ市が公約してもっとも注目されているのはセーヌ川を遊泳可能にするというものだ。1900年のパリオリンピックではセーヌ川を泳いで競技を行ったが、1923年に水質汚染のため遊泳禁止になって以来、川の汚さは変わっていない。テストとして8/19、20にパリトライアスロンを開催。セーヌ川を泳ぐというものだったが、19日の土曜の段階でその汚染は人が泳げるレベルではないとキャンセルとなった。だが、1923年以前は綺麗だったかというとそういうわけでもない。18世紀モーツァルトの母はパリで病気になって死亡。これはセーヌ川の水を飲んだからというモーツァルトとの手紙のやりとりで残っている。数年前にパリトライアスロンでセーヌ川を泳ぐ競技を強行した時の参加した友人が「1週間匂いが取れなかった、二度と出ない」と言っていたのを思い出す。

オリンピックのように4年に一度のスポーツイベントといえばパリ-ブレスト-パリだ。1891年から続く由緒ある自転車の競技だ。1951年まではツールドフランスのようなプロのレースだったが、その後はアマチュアによる競技会の“ブルベ”として開催されるようになった。ブルベとは記録という意味だがその名の通り、レースではない。順位は関係ないのだ。決められたコースを決められた時間内にゴールすれば良い。その記録は自分のためにのみある。このパリ-ブレスト-パリは、その名の通り、パリとフランスの最西端ブレストを折り返し再びパリに戻る往復で1200kmの道のりを90時間で走ればいいというものだ。甘党ならご存じのパリブレストというケーキはここから来ているのだ。

スタート地点はパリといっても郊外のランブイエ城。その庭園の中のその昔は納屋だったところ。シンガポール、タイ、インド、台湾などとにかくアジアからの参加車が多いのが目立った。もちろん日本人も。

速い人は50時間を切る強者もいるし、90時間ギリギリの人もいる。どちらも時間以内なので同じ完走。もちろんその時間は記録として残るのでそれぞれの自分の中でのメダルとなる。また、いきなりこれに参加できるわけではなく、開催されるその年の初めから200km、300km、400km、600km、のブルベをクリアーしていなければいけない。この競技は年々参加者が増え、今年はおよそ6300人との発表だ。前回は6000人ほどなので300人増えた!・・・というのではなく(たしかに増えたのだが)前回は海外からの参加申込ペースが早く、のんびりしていたフランス人がほとんど間に合わず参加できなかったことにより、今年から開催国の特権で300人の枠を特別にフランス人向けに増やしたのだ。

受付は金曜日に。小雨が時々降る4年前と同じような始まりとなった。前回で遅れたフランス人向けの特別枠が設けられた上に受け付けもフランス人専用が設けられた。

ちなみに、日本からは400人以上の参加がある。今年から子ども達も参加できる枠を作った。スタートの1週間前に子ども達は皆で1日100〜110kmほどを走り、1200kmを走りきると言うもの。ヤングジェネレーションへの教育もしっかり行っている。

パリで今一番賑わっている自転車屋を営むヴィクトールはパートナーのジーナと共に今回も参加した。経験を活かし、自らプロデュースした自転車での参加だ。その美しい自転車はなんとフィクスドバイク。シングルスピードだ。つまり、変速機やギアがなくて1速のみ。そしてフィックスドなのでリアタイヤが回る間はペダルも連動して動き続ける。普通の自転車ならご存じのようにペダルを漕ぐのをやめて足を休めてもタイヤは回転して惰性で進むことができ、そのあいだ足を休めることができる。しかしフィクスドバイクは、下りでスピードを上げていくにつれてペダルも回るので、脚もそのペダルと一緒に動かしてなければいけない。何より、上り坂になってもギアを変えることはできない。1200kmをこの足回りで走るというのはなんともチャレンジャーなのだ。

もう、パリ-ブレスト-パリを完走した経験を数回持つ二人。ジーナとヴィクトール。今回はなんとフィックスドギアで挑戦だ。ステンレスチューブをメインにシートチューブのみカーボンというもの。今回のPBPの為にショップで作られたモデルだ。

チューブを繋ぐラグにその自転車の美しさが表れる。

長距離を走ればパンクが起こるのは珍しくない。そういった最低限のツール、空気入れなどもしっかりと自転車に収められる設計だ。

カラフルな表面処理が施されたオーストラリアのBESPOKEのチェーンリング。48Tだ。クランクセットはROTOR。予備のタイヤを積んでいるのもPBP仕様。

リアのギアは18T。フィクスドギア専用のフレームなのでチェーンの張りを調整するのは前方に着く。これはディレーラーなどに力が逃げず、直接チェーンは目に引っ張る力が強いからだ。

サドルは英国のBROOKS。

長距離を走るので体に負担がかかりにくいようにハンドルバーが追加される。前傾姿勢を保って空気抵抗を少なくする役目もある。

カーボンのリムにもCYCLE VICTORのロゴが。

クリスキングのヘッドセット。

ヘッドマークにもCYCLE VICTORが。

最低限の大きさでしっかり闇夜を照らせる。省電力で点くLEDが主流。LEDの発明が一番その恩恵を受けているのは実は自転車では無いかと思う。泥よけはフランス車の伝統の全面亀甲なのがアクセントとなる。

長距離仕様の自転車にはボトルケージが3つ。二つのボトルに、予備のタイヤを収納。

ブレーキはディスク。TRPのキャリパーを使用する。

ハブにはPaulが。

ロゴ入り泥よけ。実はこの泥よけが自転車作りの肝の1つ。素材や付け方でめくれあがって焼くにたたなかったり、騒音を出したり。快適な走行を保つためには泥よけは必須なのだ。

基本的に同じ仕様のジーナ車だがハートがちりばめられているのが彼女のモデルなのだ。

競技会なので特にレギュレーションがあったりクラス分けなどもない。この自転車で完走する!という自らの意思のみだ。自分のスタイルのバイクで参加できる。走り方もそれぞれで、がむしゃらに走って疲れたら少し休んでまた走る者、計画的に走って休んで、少し睡眠も取ってという者、そしてとにかくゆっくりでもいいから停まらない者、トイレと食事休憩のみで寝ずに走り、ゴールしてから数日ぶっ続けで寝るという者もいる。とにかく自分との闘いなのだ。この期間中、コース上はあちこちでボランティアでサポートされる。今回もたくさんのドラマが生まれたことであろう。

ちなみに、このフィクスドギアで二人は規定時間よりも12時間早い78時間ほどで無事ゴールした!


写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

櫻井朋成

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