不文律をゼロリセットした令和のクラウンは、果たしてどう変わったのか?

Kazumi OGATA

「いつかはクラウン」。1983年、7代目クラウンのテレビCMに使われた有名なキャッチコピーだ。あれから約40年の歳月が流れ、人々が車に求めるものはさまがわりした。端的に言えば、クラウンは多くの人にとっての憧れの対象ではなくなった。

「変わらなきゃ」。これは1995年の日産のCMのキャッチコピーだけれど、クラウンが存続していくにあたって、それはまさに喫緊の課題。クラウンは日本専売車であり(一部中国などで販売されてはいたが)、威厳のあるフロントグリルの中央に王冠のエンブレムを携え、全幅は1800mm以下、乗り心地はソフトでなければならない、といったさまざまな不文律があった。

16代目となる新型クラウンの開発チームは、これらをゼロリセットし、セダンそしてクラウンというものを再定義するところから始めた。開発チームには“いつかはクラウン”を知らない若手を積極的に登用。若い人にとっては馴染みのあるカジュアルに使えるクロスオーバースタイルで、年配の人にとっては乗り降りのしやすい高さに、という着眼点から“リフトアップセダン”というコンセプトにたどり着いたという。

当初はこのクロスオーバー1本でいく予定だった。ところが豊田社長からこれができるのならば、王道のセダンもつくってみないかと話を持ちかけられた。それを受け開発チームからは、ステーションワゴンやスポーツタイプもやってみたいと逆に提案を投げかえしたのだという。かくして新生クラウンは「クロスオーバー」「エステート」「スポーツ」「セダン」の全4タイプが用意されることになった。

そして、第一弾として発売されたのが、クロスオーバーだ。エクステリアデザインは、エンブレムがなければクラウンとわからないほどに新しいものだ。



MSデザイン部室長の宮崎満則氏に話を聞くと、「とにかくバイトーン(2トーン)にしたかった。これまでのデザインにはグラフィックの要素がなかった。それをバイトーンにすることで取り入れています。ボディシェルが透けて見えている、挟みこんでいるようなイメージです。そして造形的には、大径タイヤ、21インチを採用できたことが大きい。大きく外に張り出したタイヤがあると、ダイナミックな造形ができる。これらを新たなチャレンジとしてやりたかった」と話していた。

その話のとおり、バイトーンの特にリアビューはとても個性的なものだ。そもそも生産を担当する元町工場では難しいとされたこの造形を、現実のものにするべく設計や生産技術の担当者もまきこんで量産化にこぎつけたという。実際、写真よりも実物のほうがカッコいい。そして、注目度も高い。街中をドライブしていて、これほど視線を浴びる日本車も珍しいだろう。



ボディサイズは全長4930mm×全幅1840mm×全高1540mm、ホイールベース2850mm。新型はアメリカをはじめ約40の国、地域で販売されるグローバルカーだけに、先代比で全長20mm、全幅40mm大きくなった。プラットフォームは横置きエンジン用のGA-K。これはカムリやRAV4、ハリアー、レクサスESやRXなどが採用するもの。この顔ぶれをみれば、良作であることは想像に難くない。

インテリアデザインは、ダッシュボード全体がTのかたちをしたシンプルなもの。メーターパネル、そしてセンターディスプレイはともに12.3インチの液晶で2つ連なっている。室内空間は先代に比べても広々としたもので、クーペスタイルながらも後席の頭上にもしっかりとスペースが確保されていた。トランク式のラゲージスペースの容量は450リッターで、9.5インチのゴルフバッグなら3つ収納可能という。





パワートレインは、2.5リッター4気筒のハイブリッドと2.4リッター4気筒ターボのハイブリッドの2種類。駆動方式は全車4WDだ。最初はなぜそんな近しい排気量のハイブリッドをわざわざ設定したのか不思議に思っていたが、2.5リッターハイブリッドのシステム最高出力が234PSなのに対して、2.4リッターターボハイブリッドは349PSと100PS以上の差があるという。そのため乗り比べてみればその違いは明らかだった。

2.5リッターモデルは、プリウスにはじまったハイブリッドシステムTHSの進化版であるTHSⅡを組み合わせたいわゆるシリーズパラレルハイブリッド。新開発のバイポーラ型ニッケル水素電池を採用することで、低速でのレスポンスを向上し、中〜高速域ではバッテリー出力を活用して加速をサポートする。トータルとして熟成の進んだシステムだけになんの違和感もない。カタログ燃費は22.4km/L(WLTCモード)。試乗中も20km/L台をキープしていたので、市街地をメインに使うのであれば、経済性を鑑みてもこちらのほうがベターということになる。





一方で2.4リッターのほうは、エンジンは自然吸気ではなく加給式で、フロントにはモーター、クラッチ、6速ATを、リアにはeアクスルを組み合わせた、一般的にいうところのパラレルハイブリッド方式だ。トヨタ初となるこのシステムは「デュアルブーストハイブリッド」と呼ばれる。



走り出しからアクセル操作に対する応答性がよくトルクフルだ。ターボラグをモーターがカバーする制御となっているようで、駆動力が途切れることなく加速していく。また従来は空冷だったeアクスルを水冷にしたことで、発進時や滑りやすい路面など限られた場面でのみ作動していたものが、ドライ路面でも常に制御。前後のトルク配分は、2.5リッターでは、100:0〜80:20とフロント寄りなのに対して、100:0〜20:80とリア寄りに配分することでトラクション性能と操縦安定性を高めている。



さらに後輪操舵システムDRSや電子制御ダンパーAVSなども備えており、見た目によらずのハンドリングマシンで相当に走りにふったモデルであることがわかる。遅ればせながら試乗後にグレード名を聞いたところ、“RS”と先代譲りのスポーティな回答が。さらにこのパワフルなハイブリッドシステムは、2GRエンジン(3.5リッターV6)の代替となるものをという開発目標だったというから、なるほど合点がいった。



今回の試乗では試せなかったが、ADAS(先進運転支援システム)やコネクト機能なども最新技術が満載されている。とにもかくにもクラウンは変わった。21インチ大径タイヤでRS系は車重も1.9トンを超えることもあり、荒れた路面では振動が気になる場面もあったが、まだ初期ロットでもありそのあたりは追ってカイゼンされていくだろう。 そういえば、2001年の9代目のカローラのCMのキャッチコピーは、「変われるって、ドキドキ」。令和のクラウンは、まさにそうなったようだ。

文:藤野太一 写真:尾形和美
Words: Taichi FUJINO Photography: Kazumi OGATA

藤野太一

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事