すべてが絶妙なエレガントBEV、ボルボ XC40/C40 Recharge

Kazumi OGATA

電動化への戦略を進めている欧州メーカー各社のなかで、もっとも先鋭的な存在がボルボだ。2025年には販売台数の半数(日本では45%)を内燃機関を廃したBEVにすること、さらに2030年にはBEV専業メーカーとなることを宣言しており、そのための歩みを着々と進めている。

現在のボルボのラインナップには、純粋な内燃機関車は存在しない。マイルドハイブリッドである48Vハイブリッドが8車種、プラグインハイブリッドは6車種、そしてBEVはC40とXC40の2車種が設定されており、「Recharge」という名称がつけられている。

一見しただけでは、この2車種は類似したものに感じられるが、C40はデザイン性を重視したクロスオーバー、XC40はユーティリティ性能の高いSUVと区別されている。XC40は2023年モデルでフェイスリフトが施され、プラグインハイブリッドモデルが発売終了となった。



クーペタイプのC40はBEVのみの展開。XC40よりもシャープで若々しいデザインだ。

2023年モデルから、BEVの「Recharge」に2種類のパワートレインが設定された。シングルモータータイプは前輪駆動で最高出力231psを発揮し、69kWhのバッテリーで最長502km(WLTCモード)の航続距離を走る。ツインモータータイプは前後輪とも204ps、合計408psの最高出力。バッテリー容量は78kWhで、航続距離は484km(同)となっている。

始めてBEVに乗るとき、どんなモデルでも扱い方に多少の戸惑いを憶えるものだが、まず乗り込んだXC40のシングルモーターにはまいった。イグニッションどころか、スターターボタンすらない。キーを持ち、シートに座れば電源がオンとなる。合理的といえば合理的だが、違和感を取り払うまではかなりの時間が必要だろう。

一方で、走り出してしまえば違和感はほとんど感じない。モーター車に続々と広がっているワンペダル操作はオン/オフがセレクト可能。オフの状態で走行すれば、内燃機関車やハイブリッド車の運転感覚と乖離がないように味付けされている。

たとえば、巡航時にアクセルを離して惰性で走行している状況では、内燃機関車はわずかにエンジンブレーキがかかっている状態となる。このあたりのフィーリングを、ボルボはエンジンブレーキが存在しないEVでも絶妙に再現している。停止後も存在しないはずのクリープ(のようなもの)がほどよく効くから、違和感なく運転できる。

ワンペダル操作に切り換えると、こちらはアクセルを緩めたときの回生ブレーキがほどよく効いてくれる。多少ペダルを雑に扱ったところで、急発進や急ブレーキにならないようなセッティングになっている。つまりどちらのモードも、BEVというものに慣れていない人にとても優しい味付けになっている。





遮音性の高さも特筆すべきポイントだ。個人的には静粛性の高さこそBEVの最大の長所だと思っているが、さらにXC40とC40は走行中の異音が極めて少ない。BEVにありがちな、微細なモーター音や電子音がほぼ聞こえなかった。風切り音やロードノイズも、かなり低減されている。

一方でアクセルを踏むと、その加速性能は驚異的。公道でのベタ踏みなど危険だし、無謀なレベルだ。なにせツインモーターは408psなのだから、当然といえば当然なのだが、ルックスも乗り心地もエレガントだから、ついつい忘れそうになる。231psのシングルモータータイプでも、遅い車の追い抜きや合流車線の加速には十分すぎるスペックだ。

購入の障壁となり得るのは、やはり充電設備だろう。ご家庭の駐車スペースに200Vの充電設備が備わっている方はいいとして、充電設備が備わっていないマンション暮らし、あるいは賃貸の月極駐車場を利用している方には切実な問題だ。

おそらくXC40とC40のBEVモデルのターゲットとして、戸建ての住まいを持つ方のセカンドカーというニーズが、はっきりと意識されているのではないかと思う。長距離移動はXC90やV90あたりのプラグインハイブリッドに任せて、BEVはあくまでも日常的なシティコミューターという使い分けだ。





家庭インフラはもちろん、公共インフラである高速道路のSA/PAさえ、休日には充電待ちの車で待機列が発生する現状では、BEVがあと8年で爆発的に普及するとは思えない。つまり2030年にBEV専業メーカーとなり、オンラインでの販売を行うボルボは、いわばテスラのようにピンポイントの顧客をターゲットとした、ニッチな方向性へと進むこととなる。これを先見性と呼ぶか、危険な賭けと捉えるかは、判断が分かれるところだと思う。

安心して欲しいのは、ボルボはなにも旧来の内燃機関車のユーザーを見捨てようとしているわけではないということだ。将来的にオンライン販売に切り換えるというアナウンスはしているものの、既存のディラー網は堅持される。2030年にBEVに切り換えるといっても、それまではハイブリッドやPHEVなど、内燃機関を使用した車は販売される。当面、既存のユーザーが困ることはなさそうだ。


文:渡瀬基樹 写真:尾形和美
Words: Motoki WATASE Photography: Kazumi OGATA

文:渡瀬基樹

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