「EVであることは二番目に重要」 ロールス・ロイスのピュアEV「スペクター」が目指すもの

Rolls-Royce

ロールス・ロイスが先日初公開した同ブランド初の完全電気自動車「スペクター(Spectre)」。ブランド自身が「世界初のウルトラ・ラグジュアリー・エレクトリック・スーパークーペ」と謳うこの弩級EVが重要視していることとは? ジャーナリストの小川フミオ氏が、同社のエグゼクティブへのインタビューを交えレポートする。



ロールス・ロイスがピュアEV「スペクター」を、2022年10月に発表した。お披露目のために私が招かれた場所は、ロンドンから100キロほど離れたグッドウッド。ロールス・ロイス・モーターカーズ本社を舞台に、電気モーターによる全輪駆動のプレミアムサイズのクーペが姿を現したのだった。



スペクターは、全長5453ミリの2ドア4座クーペ。ロールス・ロイスのラインナップでみると、スタイリングに共通性を感じる「レイス」の5280ミリより長い。ロールス・ロイスのトルステン・ミュラー=エトヴェシュCEOは会場のインタビューで「ファントムクーペ(2008-2016年)の次世代と考えていただきたい」と言っていた。

ロールス・ロイス・モーターカーズ本社は、英国のモータースポーツとは切っても切り離せないグッドウッドサーキットに隣接している。かつてブルース・マクラーレンが自身のレーシングマシンをテスト中に命を落としたことでも知られる。

英国人建築家ニコラス・グリムショーの手になる建物は、門をくぐったときに立方体にトリミングされたトピアリー(刈り込みで造型された樹木)が並ぶ。英国人はトピアリー好きと聞くので、車と対面する前からブリティッシュネスを味わわせてくれる配慮なんだろうか。



いま「ハウス・オブ・ラグジュアリー」を標榜する建物はガラス張りで、陽光がたっぷり入る。その奥で、お披露目が行われ、同時に、エグゼクティブへのインタビューが許可された。

ロールス・ロイス社CEOに聞く、スペクターのいちばん大切なこと


インタビューに応じてくれたミュラー=エトヴェシュCEOは、「2024年にラインナップの20パーセントをEV化、28年には75パーセント、そして30年までに完全EV化を目的としています」と語る。皮切りになるスペクターは、「いまは95パーセント完成していますが、来年まで最終テストが続きます」とのこと。

現段階では、モーターを前後に1基ずつ搭載することと、リチウムイオンバッテリーを組み込んだ新世代のシャシーを使うことは発表されている。最高出力は430kW、最大トルクは900Nmが目標値とのことで、満充電からの巡航距離は520キロだそう。

バッテリー容量などは「この段階では時期尚早でまだお伝えできません」と、テクニカルディレクターのミヒヤー・アヨウビ氏は言っていた。

「言えることは、EVであることは二番目に重要だったということです」と、ミュラー=エトヴェシュCEOは言う。「一番大切なのは、スペクターもロールス・ロイスであることなのです」



ロールス・ロイスとはなにか。たとえば、とアヨウビ氏。「マジックカーペット・ライドにあります」。空とぶ絨毯を思わせる、路面からの突き上げをいっさい遮断した乗り心地。



従来のガソリン車と共通する乗り味を、スペクターでも実現することが、エンジニアリング的な目標だったそうだ。そのために電子制御化したプラナーサスペンションシステムを新設計して採用。

このアイディアは「カリナン」(2018年)で導入されたものだ。プラナーとは「完全に平らで水平な幾何学的平面」を意味していて、独自の形式のサスペンションシステムに電子制御技術を組み合わせることで、路面からの突き上げをしっかり抑えた乗り心地の実現をめざすというもの。

スペクターのプラナーサスペンションシステムは「カリナンとはまったく別もの」(アヨウビ氏)という。車重が2975キロもある車体ゆえ、いわゆるバネ上荷重が重く、ひいては重厚な乗り心地になりそうだ。EVならではのハードウェアの特性を使いながら、あたらしいサスペンションシステムが導入されているのは注目に値する。

「通常の車は、メインフレームがあって、前後にサブフレームをつけていることです。乗り心地とかメリットはあるのですが、デメリットは、コーナリングなどで動きが揃わないことです。スペクターではとにかくシャシーの動きがすべて同じタイミングになるように心がけて設計しています。前後の重量配分は49対51です」

アヨウビ氏は、独自の設計哲学を披露してくれた。

「とにかく重要なのは、速さとかレスポンスのよさとかの前に、ロールス・ロイス的であることです。それをベースにシャシーやサスペンションシステムやステアリングをチューニングしています」

加速は静止から時速60マイル(100キロ弱)まで4.4秒しかからない。車重3トンの車としてはかなりの数値だ。しかし、加速のタイムが重要ではないのです、ともういちどアヨウビ氏。

「タイムでなく、どう加速するか。その味付けに心を砕きました」

エアロダイナミクスを徹底的に煮詰めたデザイン


デザイン上の特徴は、ロールス・ロイス史上最もワイドなパンテオングリルがひとつ。本当にラジエターグリルとして役に立つのか。従来のガソリン車と同じようなベーン(縦のスリット)がこの位置に必要なのか。そこはよくわからない。



ただし、スピリットオブエクスタシーの造型を含めて、空力が徹底的に煮詰められていて、空気抵抗値は0.25という。かなり低い。後方にスラントしていくルーフライン、ヨットからイメージしたという車体側面の「ワフトライン」、そしてボートテイルと呼んでもいい、すぼまったイメージのリア部分にいたるまで、各所に空力処理が徹底している結果だろう。



ドライビングポジションは、脚を前に投げ出したように座る。基本的には従来のガソリンモデルとそう違わないように思ったけれど、じっさいに量販モデルでは、大型の液晶パネルなど、最新のデジタライゼーション技術が採用されるようだ。



納車は、2023年の第4四半期を予定。価格は「カリナン(4258万円)とファントム(6050万円)のあいだ」と広報担当者が教えてくれた。



Specifications
Rolls-Royce Spectre
全長×全幅×全高 5453x2080x1559mm
ホイールベース 3210mm
電気モーター前後1基ずつ 全輪駆動
最高出力 430kW(予定)
最大トルク 900Nm(予定)
航続可能距離 520km(WLTP)


文:小川フミオ Words: Fumio OGAWA

文:小川フミオ

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