安東弘樹さんが語る、ボルボ XC60 Recharge プラグインハイブリッドの「正味のところ」

Masaya ABE

ボルボというのは結局のところ「非常に倫理的なメーカー」なのだろう。

20世紀中の、あるいは21世紀初頭までのボルボの倫理観は、もっぱら「安全」に向けられていたように思える。交通事故というものを減少させ、人の命を救う。そして人々の幸福を最大化させる。それこそがボルボという自動車メーカーのテーマであり、倫理だった。

そしてその倫理観は今、従来からの「安全」と同等の重量感でもって「サステイナビリティ」にも向かっている。



人類が古来より築いてきた科学文明は偉大なものであったが、その代償はあまりにも大きいことがわかってきた今。ボルボという「あまりに倫理的で生真面目な自動車メーカー」がサステイナビリティ、つまりは持続可能性こそを今後の主たるテーマとするのは、物の道理としては必然なのだろう。

地球という惑星と、そこで暮らす人々のため「2040年までにクライメートニュートラルな企業になる」と公言している生真面目なボルボが、その暫定的なステップとして取り組んでいるのが「2018年から2025年の間に、自動車1台あたりのライフサイクルカーボンフットプリント(CO2排出量)を40%削減する」ということ。

そのための手段として、2019年以降に発売されたボルボの新車は電動モーターを搭載することになった。

今回試乗するボルボ XC60 Recharge プラグインハイブリッドが、内燃機関に加えて電動モーターも搭載したのは、ひとえに地球および人類の持続可能性のためであり、言い方を変えるなら「ボルボというブランドの倫理観ゆえ」である。



だがしかし――生身の人間は倫理観のみに基づいて車を入手するわけではない。高い倫理観あるいはサステイナビリティが重要であると理解したうえで、しかし「ファン」「プレジャー」といった要素も同時に内在されている車でない限り、人の心というのはなかなか動かないものだ。

その点でいうと、ボルボ XC60 Recharge プラグインハイブリッドという車はどうなのだろうか? つまり、この惑星の持続可能性に貢献できる環境性能と、ドライバーの胸を熱くする何かが、共存している車なのだろうか?

そこを知るため、ひとりの男に“診断”を委ねた。

安東弘樹さん。成城大学卒業後、TBSテレビのアナウンサーとなり、現在はフリーアナウンサーとして活躍中の53歳。その経歴と貴公子然としたルックスから「苦労知らずのボンボン」と勘違いされることも多い人物だが、ところがどっこい超苦労人であり、そして超が付くほどの車好きでもある。

そんな安東弘樹さんに、ボルボ XC60 Recharge プラグインハイブリッドという車の「正味のところ」を語っていただくことにしよう。



「まず、デザインは素晴らしいと思います。特にリアセクションのブリスターフェンダー的なふくよかさは非常にセクシーですし、明るい色調のリアルウッドと金属マテリアルが織りなすインテリアも、人の心を高揚させると同時に落ち着きももたらすという絶妙な仕立てです。ただ……気になるのはリチウムイオンバッテリーの残量でしょうか」

都内を出発し、まずは東京湾アクアラインの海ほたるPAに降り立った安東さんおよびボルボ XC60 Recharge プラグインハイブリッドのバッテリー残量。出発前はフル充電状態であったにもかかわらず、都内から25kmほどの距離にある海ほたるPAに到着した時点で、約半分になっている。

なお、ボルボXC60 Recharge プラグインハイブリッドには「Hold」および「Charge」という機能が備わっており、Hold機能を使用すると、ハイブリッドバッテリーの充電残量を確保しておくことができる。そして高速走行時にCharge機能を使用すると、満充電の80%までは走行中に充電が可能となる。

つまり、自宅から高速道路までは電気のみで走行し、高速でHoldまたはCharge機能を使い、そして高速道路を降りたらまた電気のみで走行する――というのが、おそらくはもっとも効率的な走り方となる。

ただ、今回の試乗にあたってはHoldおよびCharge機能は使用しなかったことを、あらかじめお断りしておく。



「一見、もうこんなに減っているのか、と感じましたが、この車のEV最大走行可能距離は、たしか最大39.4kmでしたよね? ここまでは電気モーターだけで走る『Pure』モードではなく、モーターとエンジンを適宜切り替えて走る『Hybrid』モードで来たわけですが、バッテリー残量があるうちはモーター駆動を優先する制御になっているので、考えてみると順当な数字だとはいえるのでしょう。では、先を急ぎましょう」

再びボルボ XC60 Recharge プラグインハイブリッドに乗り込み、東京湾アクアラインを快走する。

「印象としては、まず第一に非常に力強い走りをする車ですね。先日、1.6Lのターボエンジンを搭載するプラグインハイブリッド車に3日間、乗ってみたのですが、XC60 Rechargeは2Lのターボ+スーパーチャージャーエンジンが最高出力318psを発生し、さらにはフロントに46ps、リアに87psの電気モーターが組み込まれていますから、力強さに関しては別格といえます」

そして「エンジン音が非常に静か」だとも言う。

「『Hybrid』モードで走行中はメーター内の表示でエンジンがかかっているか否かがわかるわけですが、そのインジケーターを見ない限りは、エンジンがかかっているのかどうかはほとんどわかりませんね」



全体的に好印象であるという安東さんだが、そもそも「プラグインハイブリッド車」というものについてはどう考えているのだろうか?

「以前は正直、『中途半端な存在だな』と思っていました。街乗りがメインの人であれば一般的なハイブリッドシステムで十分でしょうし、私のように、異常なまでに(笑)日々長距離を走るドライバーにはディーゼルエンジンが合っています。ですがプラグインハイブリッド車は、結局はすぐにバッテリー残量がゼロとなり、あとはバッテリー&モーターという重量物を抱えながら走ることになるので、最終的な燃費は10~15km/L程度にとどまってしまう。それじゃ意味ないよな、と思っていたんです。しかし……」

しかし?

「長距離を走ってバッテリー残量がなくなった後の、エンジンのみでの走行を含めた総合的な燃費も最近のプラグインハイブリッド車は良好で、なおかつ走りの質感も高いので、『普段は短距離走行がメインで、休日などだけは長距離を走る』という使い方には最適かもしれない――と、最近は思うようになってきたんです。さて……ボルボ XC60 Recharge プラグインハイブリッドの場合はどうなんでしょうね?」

電気モーターとエンジンを適宜切り替える「Hybrid」モードを基本としつつ、時おりエンジンとモーターのパワーをフルに引き出す「Power」モードも試しつつ東京湾アクアラインを快走するボルボ XC60 Recharge プラグインハイブリッド。都内から35kmほど走行した時点で、そのバッテリー残量はゼロ近くとなった。

モーター以外に2Lのターボ+スーパーチャージャーエンジンを搭載しているため、もちろんこのまま走り続けることもできる。またCharge機能を使うこともできる。だが昼時ということもあり、食事休憩で人間の“充電”を行うついでに、1時間ほどXC60 Rechargeの充電も行うことにしよう。



「さて。おいしい食事で満腹になったことですし、出発しましょう。200Vの普通充電を約1時間行って――バッテリー残量は少々復活しましたね。まぁ急速充電ではないので、こんなものでしょう。では、まいります」

再び高速道路と一般道を快調に行くXC60 Rechargeと、安東弘樹さん。「『Hybrid』モードでも力感は十分以上ですが、『Power』モードにするととにかく速いですね! パワフルです!」と、普段のアナウンサーモードとは違う「車好きモード」の声で時おり絶叫しながら。だがしかし――。

「しかし、こうやってCharge機能を使わずに気持ちよく走っていると、回生を利かしていてもバッテリーの減りは早いですね。本日の目的地である海岸に到着する前に、早くもバッテリー残量の表示はゼロ近くになりました。

でも……ここからがテストの本番ですよ。エンジンのみでの走行を含めて、燃費は結局トータルで見てどうなるのか? そこに興味があります。私の経験から言うと、ここからどんどん、もう笑っちゃうほどガソリン残の表示が減っていくプラグインハイブリッド車も多いのですが……この車はなかなか減りませんね。おかしいな……。いや『おかしい』ってこともないのですが(笑)」





国道を快走し、海岸裏手の木漏れ日が心地よい道をクルージングしても、ボルボ XC60 Recharge プラグインハイブリッドの燃料計の目盛はなかなか降下しない。「ほぼ満タン」の位置を示しっぱなしである。

「飛ばしてはいませんが、特別なエコドライビングをしているわけでもないのに……これは相当燃費がいいですね。あ、やっと目盛が0.5ぐらい減ったかな? や……よく見ると減ってないかもしれない(笑)」

結局のところ、海岸線をひたすら走り、撮影を終え、そして再び国道や高速道路を快走したうえで都内に戻った時点での総合燃費は、車載の燃費計によれば「21.2km/L」。航続可能距離は「780km」と表示されていた。

「これは“驚異的”といって差し支えないでしょうね……。車両重量が2.1トンを超えるハイパワーなSUVで実燃費が20km/L以上というのは、驚異的とすらいえます。そして、これだけ走ってもまだ『あと780kmぐらいは無給油で走行できる』というのも――まぁ燃料タンク容量が70Lと大きめであるという理由もあるわけですが――私のように長距離を走ることが多いドライバーにとっては僥倖です」



では結論として、ボルボ XC60 Recharge プラグインハイブリッドという車はどうだったか?

「結論として、決して中途半端ではない“楽しい車”“興味深い車”であるように思えました。最初に申し上げたような『普段は短距離走行がメインで、休日などだけは長距離を走る』という使い方を想定しているユーザーには、うってつけな選択肢のひとつといえるでしょう。

現状の日本における脆弱な充電インフラやバッテリーの性能、あるいは急速充電にかかる時間のロスなどを考えると、BEV(純粋なEV)は、日本ではまだまだ若干ハードルが高いといえます。しかしプラグインハイブリッドであれば、特にボルボ XC60 Recharge プラグインハイブリッドであれば――普通に使えますね。今日、それを確信しました」


文:谷山 雪 撮影:阿部昌也 Words: Setsu TANIYAMA Photography: Masaya ABE

文:谷山 雪 撮影:阿部昌也 Words: Setsu TANIYAMA Photography: Masaya ABE

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