名高いグッゲンハイム美術館の全フロアが、総勢38台の名車で埋め尽くされる|「MOTION Autos Art Architecture」展

Pablo Gómez-Ogando / Norman Foster Foundation


「モーション」は、グッゲンハイム美術館の全フロアを使って、総勢38台を展示する。車にまつわる重要な7つのテーマについて、その代表として選ばれた車両だ。テーマは、実用性や自動車の民主化に関するものから、純粋な美しさ、優れた性能まで、多岐にわたる。意外なことではないが、建築とのつながりも取り上げられている。「ル・コルビュジエは、“パリ・ヴォワザン計画”で、やがて高速道路が発達し、都市と都市を結ぶ大動脈になると予想していた」とフォスターは話し、ル・コルビュジエが所有していたヴォワザンC7を展示している。広大な展示エリアには、ほかにも、1914年ロールス・ロイス“アルパイン・イーグル”が、フォード・モデルT、ブガッティ・タイプ35などと肩を並べる。

テーマのひとつに「彫刻」がある。「ある芸術家仲間が、私のベントレーRタイプ・コンチネンタルのリアフェンダーをなでながら、まるでブランクーシかヘンリー・ムーアの彫刻をなでているようだと表現したんだ。一旦そうした視覚的つながりができると、抗いがたい力を持つ」とフォスターは説明する。こうして、ムーアの有名な「横たわる像」が中央に展示されることとなった。その周囲には、造形美で名高いペガソZ-102やドライエT165、ブガッティ・タイプ57Cアトランティーク、そしてもちろん、発想の元となったベントレーが並ぶ。

マリン・コレクション所蔵の「彫刻」、ブガッティ・アトランティーク。

大衆車も、同じ尊敬の念をこめて取り上げられている。戦後の復興にはこうした車が不可欠だったとフォスターは考えている。フィアット500、VWビートル、ミニ、ルノー4、シトロエン2CVのほか、ウィリアム・タウンズの1972年ミニッシマもある。「第二次世界大戦のあと、車は、国の誇りと再生のシンボルになった」とフォスターは話す。

非力な大衆車は膨大な数が公道を駆け回ったが、それと対極にあるのが、ひと握りの恵まれた人々のために造られたパワフルなモデルだ。それを集めたのが「スポーティング」の展示室である。フォスターのかつての生徒であるニック・メイスンがこの企画展に手を貸し、いくつかの展示室の音響効果をデザインした。それだけでなく、メイスンのフェラーリ250 GTOが、この展示室のスターを務める。GTOは目玉ではあるが、他の展示車両も負けてはいない。マルコム・セイヤーがデザインしたEタイプは今も息を飲む美しさだし、1950年ポルシェ356プリAはやる気に満ちあふれ、メルセデス・ベンツ300SLガルウィングは見事に洗練されている。ボンド映画の撮影で使われたDB5もあり、銀幕を飾った車の文化的な重要性を訴えている。「このアストンは、ファッションと華やかな世界と映画の結びつきを象徴している。あの巧妙で奇抜なイギリスらしい秘密兵器は、デザイナーで芸術家のケン・アダムの作品だ。DB5の女性的なラインと、ボンドの男らしさは、完璧なペアだった」

356にガルウィング、Eタイプ、DB5と250 GTOが彩る「スポーティング」の展示室。

おそらく最も刺激的なのが「ビジョナリー」の展示室だろう。「ジャコモ・バッラによる未来派の絵画と、ゼネラルモータースなどによるワンオフのコンセプトカーには、視覚的に通じるものがある」とフォスターは話す。1954~58年のGMファイアーバードが3台揃ってヨーロッパで展示されるのは、これが初めてだ。GMは1950年代に自動運転を開発していたのだから、このテーマにふさわしい。当時は先を行きすぎていたが、今やテレビを見ながらの自動車通勤も、そう遠い未来ではないかもしれない。アルファロメオB.A.T. 7は、巨大な折り紙の貝殻のようで、まさに圧巻。シトロエンDS21は先見性の塊だから、このテーマには欠かせない。7冠王者ルイス・ハミルトンのメルセデスF1は、「モーション」で唯一の21世紀からの展示だ。その空力パーツを間近で見ると、気が遠くなるほど複雑な“ビジョン”を感じる。

ルイス・ハミルトンのF1マシン。

スカリオーネが手がけた衝撃的なアルファロメオB.A.T. 7。

「自動車の影響が広く行きわたった点で、アメリカを超える場所はない。経済や景観から、郊外の拡大、ポップカルチャーまで、どこよりも大きな影響を受けた」。こう話すフォスターに従って、広々とした美術館を歩き、最も狭い部屋に入ると、そこは最も大きな車両を収めた「アメリカーナ」の展示室だった。絵葉書から抜け出したようなキャデラック・エルドラドが、マスタングのプロトタイプと並ぶ。この2台は、「広大な国土と果てしない地平線を横断する旅、点在するダイナーやガソリンスタンドを経由しながら走るロードトリップのロマン」を象徴するとフォスターは話す。ほかにも、当時の文化を感じさせる1934年フォードのホットロッドや、歴史を作ったウィリス・ジープが展示されている。ジープについてフォスターは、「装着するスコップに至るまで、別種の美と一貫性がある」と話す。

「アメリカーナ」のスター、キャデラック・エルドラド。

最後の展示室は「未来」だ。1台も展示されていないことがテーマを雄弁に物語る。代わりに、未来の個人用移動手段に関する刺激的な解説があり、内燃エンジンの終焉が予想されている。「かつて、電動車とガソリン車の数がほぼ同じ時代があった」とフォスターは話す。そうした黎明期を経て、どちらの動力が勝利したかは誰もが知っている。それから1世紀の時が流れ、振り出しに戻ったというのがフォスターの考えだ。「未来は歴史が繰り返した結果と捉えるべきだろう。この企画展で、車に関する議論が活性化してほしいし、そうなるはずだ。展示を見た人々が、車は実に興味深い物語を紡いで私たちの生活を変貌させた、それを素晴らしい形で称えていたと思ってもらえれば幸いだ」

未来の移動手段が何を動力にするにしろ、ラインやフォルムが再び脚光を浴びるだろうとフォスターは断言する。「デザインのルネッサンスが起きてほしい。第一に求められるのは実用性かもしれないが、今は“ありきたり”な車が多すぎる」。こうした見解も、フォスターが関与した車や所有する車を見れば納得である。その情熱に火を付けるのは、巧妙で完全なエンジニアリングと、芸術的な造形美とが、特別な配合でブレンドされている車だ。ダイマクシオンやベントレーRタイプ・コンチネンタルが好例である。さらには、ほかのどの車より、企画展の7つのテーマをすべて体現しているといえる車、タトラT87も所有しているのだ。

「MOTION Autos Art Architecture」(モーション:自動車、芸術、建築)についての詳細
guggenheim-bilbao.eus/en/exhibitions/motion-autos-art-architecture


翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA
Words: Stephen Archer Photography: Pablo Gómez-Ogando / Norman Foster Foundation

オクタン日本版編集部

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