86年間を生き延びた商用車|焼きたてパンの香りが漂ってきそうな、エモいバン

RM Sotheby's

ある年齢のロサンゼルスっ子にとって、「ヘルムズ・ベーカリー」の配達用のバンほど郷愁を誘うものはないという。カリフォルニア州カルバーシティにある大きなパン屋「ヘルムズ」から焼きたてのパンやお菓子をバンに積み込み、ホイッスルを鳴らしてやってくる「ヘルムズ・マン」を人々は楽しみにしていた。

1931年に会社を設立した創設者のポール・ヘルムズは、店頭での製品販売はおこなわず、ユニークな配達車両それ自体が効果的な広告として機能すると考えた。そのため彼はオハイオ州ケントのツインコーチに、148台のバンの製造をオーダーしたのだ。後部の木製キャビネットは特注で、たくさんのパンやケーキを収納することができる。



何年にもわたり使い込まれる商用車には、随時改良が施された。4気筒エンジンを6気筒に載せ替えられたりしながら、最終的には廃車になるまで働いたバンが多かった中で、この1936年のヘルムズ・ツインコーチは例外的に4気筒エンジンのまま現在まで生き残った数少ない車両のひとつである。



8月にアメリカのモントレーで開催されるRMサザビーズのオークションに出品されているこのヘルムズのバンは、淡い黄色とブルーのペイントに当時のグラフィックが施され、リアの木製棚にはドーナツやケーキ(模造品)がぎっしり並べられていて、現役時代の姿を再現している。





1932年のロサンゼルスオリンピックの際にはパンのサプライヤーとして契約をするなど、マーケティングを先取りしていたヘルムズ・ベーカリーだが、さらに注目に値するのは、このバンの運転席のドアに貼られた「First and Finest on the Moon」のポスターである。これは、ヘルムズ・ベーカリーの歴史に残る出来事だ。ヘルムズのパンは、1969年のアポロ11号のミッションで宇宙飛行士とともに宇宙へも行っているのだ。





遠く離れた月への配達さえも果たしたヘルムズ・ベーカリーであるが、現代のスーパーマーケットの台頭や消費者の購買方法の変化に対応することができず、残念ながらその年の後半に会社は閉じられることになった。

今年で86歳になるこのデリバリー・バンは、見覚えのある人には郷愁を、初めて見る人にも懐かしさを感じさせる。たとえ焼きたてのクッキーやパンが積まれていなくても、この長寿バンは周りの人々を笑顔にすることは間違いない。

オクタン日本版編集部

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