カイエンの祖先!? ポルシェ初のオフロードカー「ヤークトヴァーゲン」プロトタイプ

RM Sotherby’s

今夏、アメリカ・カリフォルニア州モントレーで開催される「モントレー・カーウィーク」と併せて、RMサザビーズがオークションを開催する。具体的にはモントレー・カンファレンスセンターという施設で8月17日に下見会、18日から20日にかけて総勢175台(台数未確定)がオークションで競りにかけられる。

出品車両リストには興味深い、ポルシェが掲載されていた。なんと…、ポルシェ初のオフロードカーだ。ポルシェが現在ラインナップしているオフロードカーといえば、カイエンとマカンが思い浮かぶ。ちなみに昨年、ポルシェの総生産台数のうち約半分をこの2モデルが占めている事実、ご存じだっただろうか?

遡ること約半世紀、実はポルシェには「タイプ597」と呼ばれるオフロードカーが存在した。タイプ597の通称である「ヤークトヴァーゲン」はドイツ語で“狩猟車両”のような意味合いをもつ言葉である。



1953年1月、ドイツ軍が軍用車両の公共調達情報を掲示しポルシェが手を挙げた。ポルシェとしては初めての軍用車だがポルシェの創業者、フェルディナント・ポルシェはVWの軍用車、タイプ82キューベルヴァーゲンやタイプ86シュヴィムヴァーゲンの開発に直接関与していたアドバンテージを有していた。

なお、公共入札に参加したのはポルシェ、アウトウニオン(アウディ前身)、ボルグヴァルドグループ(1961年に倒産し、中国資本で2010年にブランド名が復活するも2022年4月に倒産)であった。なぜ、VWが入札に参加していなかったのかはミステリーだ。

タイプ597は、軍用車であるにもかかわらず軽量でパワフル、空冷リアエンジンという、ほぼすべての面でポルシェらしい設計に仕上がっていた。高いボディ剛性を持つスチール製モノコックに、ショックアブソーバーを備えた完全独立型のトーションバー・サスペンションを搭載。1.5l水平対向4気筒エンジンと4速MTはポルシェ356のものを流用し、フロントアクスルカップリングによりセレクタブル4輪駆動機構も持つ。







最低地上高が高めになっているのは、登坂性能を確保するため。そして、サイドシルが高めなのは、浮航性・水陸両用性を持たせるためだった。左リアのブレーキランプ上部にエグゾーストパイプが配されているのは、水陸両用車ならでは。





1954年初頭から356カレラや550スパイダーと並行して、ポルシェの工場で22台のプロトタイプが製作された。そして、少なくとも最初のプロトタイプ2台は、究極の水陸両用機能を実現するためにプロペラとオールまで装備されていた、と言われている。

ポルシェはタイプ597で競合他社よりも優れたテスト結果を残したものの、ドイツ軍による採用には至らなかった。開発コストの高さに起因する1台あたりの価格、生産に要する時間、スペアパーツの流通難などが不採用の理由だった。

ドイツ軍が採用せずともドイツ国内のスポーツ選手や海外の軍隊向けに売れるかもしれない、と淡い期待でタイプ597は市販されることに。とは言っても、さほど売れることはなく1956年から60年にかけてプロトタイプ含め合計71台(プロトタイプはポルシェで、そのほかはカルマンで)が生産された。ポルシェクラブ・ヤークトヴァーゲン・レジストリ―によると、現存台数は50台ほどだそう。そういう意味では、最も参加人数が少ないポルシェのオーナーズ・クラブかもしれない。

RMサザビーズに出品されているタイプ597は、1954年1月から1955年12月にかけてポルシェが生産したプロトタイプの5号車、車体番号0005である。ほかのプロトタイプ同様、生産後しばらくポルシェの工場に保管され、ドイツ軍や海外の軍隊への展示会に用いられた、と思われる。1956年4月下旬、ドイツのコブレンツにあるポルシェ・フォルクスワーゲンのディーラー、レア・アンド・ベッカー社に売却されたことがファクトリー・カーデックスの写しから判明している。



フルレストアされた当該車両、どの写真を見てもまるで新車。参考までにオークションデータを漁ってみると2016年に1957年式が17万5100ポンド(ボナムズ主催)、1958年式が33万ドル(グッディング主催)で落札されている。いずれも市販モデルで、車体番号0005のプロトタイプがどのように評価されるのか、気になるところだ。


文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)

文:古賀貴司(自動車王国)

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