未亡人の希望を叶える勇者求む!蜘蛛の巣だらけのBMW3.0CSL

The Market by Bonhams

高級オークションハウス、ボナムスが展開する「The Market」。オンラインでクラシックカーやコレクターズカーを売買できるプラットフォームで、コロナ禍において成長を遂げている。

そんなThe Marketに現在、面白い車が出品されている。1972年式BMW3.0CSLだ。状態が良い車両であれば14万ドル(約2300万円)は下らない、と言われているにもかかわらず、予想落札価格は1万5000ポンド~2万5000ポンドと破格・・・。ただ、写真を見れば分かるように、車両の状態はお世辞にも良好とは言えない。



1972年5月にデビューを飾った3.0CSLは、ヨーロッパ・ツーリングカー選手権のホモロゲーションモデルとして1265台が生産された。3.0CSのエンジンをボアアップし、排気量を2985ccから3003ccへと拡大させているが、CSLの「L」はドイツ語のLeicht(軽量)を意味する。

ボディの鉄板は3.0CSのものよりも薄く、内装を簡素化しボディ随所に配される消音材を取り払った。パワーウィンドウも廃止したほか、フロントバンパーを軽量のものに交換。またドア、ボンネット、トランクリッドをアルミ製に、リアウィンドウをアクリル製に変更し、ベース車の1400kgから210kgもの軽量化が図られた。翌年には、よりパワフルなエンジンを搭載し、ボンネット上に整流板やエアロパーツを装着した進化版、通称“バットモービル”も投入された。

ただ、当該車両をはじめ、イギリスに輸出された500台はインポーターの強い要望により消音材やパワーウィンドウは装備したままで、いわゆるアイアンバンパーも3.0CSのまま。“羊の皮を被った狼”であって欲しい、高級車としての快適性は維持して欲しい、というイギリスならではのこだわりがあったようだ。

当該車両、1977年に出品者の亡き夫が購入したもので実に45年間、所有されてきたもの。本当はイギリスのクラシックカー好きだった亡き夫、3.0CSLだけはどの角度から見ても美しい、という理由で購入したという。まだ健在だった頃、友人とドライブに出かけたらエンジンをブローさせてしまい、エンジンは載せ替えられている。



出品者いわく亡き夫はいつかレストアする、という意思はあったそうだ。事実、ステンレス製マフラーや状態の良い4本の中古ホイールは今回の出品車両に含まれている。想像するにたくさんの車を所有していて、なかなか3.0CSLまで手が回らなかったのかもしれない。だが亡き夫、2004年から病床にふしてしまったという。当該出品車両からは、“いつかやる”では何事も成し遂げられない、という人生の教訓すら感じてしまう。



何年間、どのような状態で保管されてきたのか不明だが・・・、車内には見事な蜘蛛の巣が張るほどで、落ち葉まで貯まっている。錆もボディ各所に散見されるもののボンネット、ドア、トランクリッドは比較的良好な状態が保たれているのは、さすがアルミだ。





車両の鍵は現在、出品者が家のなかで探しているが、落札時までに見つからない場合は新品を用意してくれるそうだ。出品車両の解説文に「エンジンはかからないと思われる」と記されているのは、英国流ユーモアだろうか?

車体番号さえあれば、車はどんな状態からも復活できる。とはいえ、当該車両、なかなか手ごわそうではあるが、それだけ達成感が見出せるだろう。唯一気になるのは、レストアに必要なコストかもしれない。

かつて取材で訪れた某メーカーのクラシックカー部門、車両がどのような状態でも50万ポンド支払えばフルレストアできる、と言っていた。ただ、それは車両の価値が50万ポンド以上であれば“割が合う”話となるが、現在の3.0CSLの相場では・・・。

出品者にとっては亡き夫との思い出が詰まった車、勇者が救ってくれることを願うばかりだ。


文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)

文:古賀貴司(自動車王国)

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