「まさに弾丸」 伝説のランチア・ラリー037の生まれ変わり、「キメラEVO37」の実力を山道で試す!

Luuk van Kaathoven

魅力を増すレストモッドの世界に、キメラEVO37が加わった。美しさ、スピード、スタイル。どれを取っても、オリジナルのランチア037と同様、いやそれ以上だ。



思い出に残る訪問となった。イタリアのクネーロでルカ・ベッティとディナーを取り、彼が所有する17世紀の邸宅、ヴィラ・キメラに1泊。翌日は、彼が作り上げた最高出力500hpのレストモッド、EVO37で山道を1日中走ってすごした。

ベッティはシンガーを信奉する。シンガー社とその“リ・イマンジンド”911が誕生したのは、新しいタイプのレストモッドの揺籃期だった。以来、数々の魅力的なレストモッドが登場している。アルファホリックスのGTA-R 290、シアン・レーシングのボルボP1800、アウトモビリ・アモスのデルタ・フトゥリスタ。こうした素晴らしきアナログの車たちは、デジタルのハイブリッド・スポーツカーやハイパーカーに占められた現代にあって、一服の清涼剤だ。

この魅惑的な世界に、ルカ・ベッティが新たなスターを送り込んだ。伝説のランチア・ラリー037の生まれ変わりである。これは素晴らしいチョイスだ。037は、歴史に残る美しいコンペティションマシンであるだけでなく、実際に大成功を収めた。それはランチアがフルビアやストラトス、デルタS4、そしてインテグラーレで、国際ラリーを席巻していた時代だった。037はグループBで恐るべき戦闘力を発揮し、後輪駆動でありながら、強敵アウディ・クワトロから1983年のWRCタイトルを奪い取った。ランチア037の製造数は、ホモロゲーション取得に必要な200台のみだ。

ランチアと共に育ったベッティにとっては、考えるまでもない選択だった。情熱に従って自分で車を作り上げる決意をひとたび固めると、名高い希少な037を選ぶことは自明の理だったのである。



私たちは軽い昼食をとるためにトリノへ向かった。中心街に入ると、ベッティは、自らデザインし、製造した車でランチアのお膝元を走ることがいかに誇らしいか、口にせずにはいられなかった。彼はこのところ忙しく飛び回っていた。現時点で唯一公道を走行できるプロトタイプ、このシルバーグレーのキメラEVO37を、見込み客やファンに見せるために、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードをはじめとするヨーロッパ各地のあらゆるイベントに顔を出しているのだ。

この日もベッティは、オーストリアのレッドブルリンクで開催されたピレリのイベント、Pゼロ・エクスペリエンスから戻ったばかりだった。

「関心を寄せる人たちを乗せて、フルスピードで100周は走ったけれど、EVO37はびくともしなかった。ブレーキもエンジンも、すべて軽々と持ちこたえたよ。ストレートでは280 km/hに達した。空力もドンピシャで、風洞テストを元に予想していたとおりの走りをした。リアウィングも完璧に機能し、リアアクスルにかかるドラッグやダウンフォースが増えるのが分かった。過度ではなく、フロントとリアのダウンフォースがちょうど釣り合う程度だ」とベッティは話す。

イベントには、フェラーリ、ポルシェ、マクラーレン、AMG、アストンマーティン、パガーニも参加しており、勇気づけられることに、関係者の誰もがキメラの名を既に知っており、EVO37の出来栄えに感銘を受けていたという。



その人を惹きつける力を私たちは目の当たりにした。トリノの“ピアッツァ”にシルバーのキメラを駐車すると、通行人が次々にスマホを取り出して写真を撮り始めたのである。実に存在感のあるマシンだ。巨大なスポイラー、ワイドでフラットなノーズ、突き出した4灯のLEDライト。037ストラダーレとラリーバージョンの最高の要素が揃い、そこにデルタS4の鋭く角張った大きなフェンダーを装着する。

リアスポイラーのスロットはスタイリング要素として考案されたが、空力に大きな効果のあることが風洞で証明された。

ベッティはキメラをレストモッドと呼ぶが、この言葉では不十分だ。なぜならEVO37は隅々まで設計し直され、オリジナルの037とまったく同じ部分は2箇所しかないのである(今や億は下らないオリジナルの037は、キメラの製造にあたって1台も犠牲になっていないのでご心配なく)。

ランチアは、ベータ・モンテカルロのコクピットを流用し、前後にサブフレームを加えて、そこにサスペンションを装着した。ベッティもモンテカルロのコクピットを利用した点は同じだが、あくまでも“覆い”として使っただけで、その下はEVO37のために新たに開発したチューブラーシャシーが支える。したがって、EVO37はオリジナルよりはるかに剛性が高く、乗員は頑丈なロールケージに囲まれている。

ランチアは、モンテカルロからエンジンも流用した。ベッティと支援者もこれに倣ったが、性能は大幅に引き上げた。037と同じく、ヴォルメックス製スーパーチャージャーで過給するが、デルタS4と同じように、大型の水冷式ターボチャージャーも搭載するのである。



スーパーチャージャーは、クランクシャフトで常時回転するのではなく、駆動プーリーの電磁クラッチでオン・オフされる。低回転域はスーパーチャージャーで増強されるため、EVO37にはラグを恐れずに大型のギャレット製ターボを搭載できた。ターボの回転が十分に上がると、スーパーチャージャーは小休止する。

当然ながら、この破壊力に耐えられるよう、エンジンの可動部品はすべてアップグレードされ、シリンダーブロックも特別な補強プレートで底部が強化されている。プロダクション版ユニットの基本出力は420hpだが、ベッティ曰く「ちょっとした儀式」を行えばレースモードを起動でき、505hpものパワーが発揮される。“儀式”といっても、ボタンをいくつか操作するだけだ。

オクタン日本版編集部

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