「まさに弾丸」 伝説のランチア・ラリー037の生まれ変わり、「キメラEVO37」の実力を山道で試す!

Luuk van Kaathoven



では、EVO37はどんな走りをするのだろうか。これは端的に表現できる。まさに弾丸だ。7000rpmまで踏み込むと、爆発的な加速を見せるのである。ドンッと発射されるような感覚は、フェラーリF40のようだ。これは感触が似ているという程度ではなく、実際に、車重と出力の比率があの伝説的フェラーリとほぼ同じで、1馬力あたりの重量はわずか2kgなのである。



衝撃をいっそう強烈なものにするのが、ウェイストゲートからのシューッ、フィーンという音や、スーパーチャージャーならではの鋭い回転音だ。スロットルペダルを動かすたびに、両者が切り替わるのが音で分かる。エグゾーストノートも爆音だから、キメラが全開で走ったら、1km離れたところでも聞こえるだろう。

4気筒エンジンは、どんなときもスロットルペダルに即座に反応する。スーパーチャージャーとターボの見事な連携によって、常に準備が整っているのだ。早めにシフトアップすれば背後のパワーをいくらか落ち着かせることはできるが、それでも強大なトルクには度肝を抜かれる。右手のすぐ下に、600Nmの爆発的なトルクが常に身を潜めている感じだ。その威力には、ピレリもたちまち音を上げる。プロダクション版のEVO37にはトラクションコントロールを装備するが、そのキャリブレーションはレーシングカー用である。

キメラは純粋な2シーターで、ノーズにたっぷりスペースがある。バケットシートは硬く、ウエハースのように薄い。シートベルトは5点式で、昔のイタリア車らしい両脚を広げるドライビングポジションだ。インテリアにはクラフツマンシップが香り立つ。カーボンファイバーやアルカンターラなど美しい素材を使い、どこをとっても丁寧な作りだ。



多くの計器がずらりと並ぶが、どれも動いていない。プロダクション版の計器はまだ納品されていないからだ。未来のオーナーは、圧力計の針が踊る様子から、ターボとスーパーチャージャーが連携する様を目で楽しめるだろう。

センターコンソールには、プロトタイプのドライビングと監視に必要な計器を表示するスクリーンが。プロダクション版EVO37には、ナビゲーション付きのシンプルなエンターテインメントシステムが装備される。

ひどく加熱する車だが、エアコンも装備でき、ナビゲーション付きのシンプルなエンターテインメントシステムも搭載される。EVO37はスポイラーが巨大なため、バックミラーはなく、代わりにリアビューカメラを備える。プロトタイプでは極小のウィングミラーも、実車では拡大される予定だ。

エンジン始動と燃料ポンプのスイッチはセンターコンソールに位置し、スターターモーターを稼働させるには、トンネルの左右にある2個の小さなスイッチを同時に押す必要がある。トンネルの中には、グラツィアーノ製6段ギアボックスまでボーデンケーブルが走っている。シフト機構は実に美しく、その位置も絶妙で、気持ちのよい乾いた感触で動く。デュアルクラッチATの設定もあるが、今のところこれを選んだ購入者はいない。

シフト機構は目にも美しい。センタートンネルの左側はメインパワースイッチ、右側は燃料ポンプのスイッチ。その間にあるボタンでドライビングモードを変更できる。

私たちはトリノの喧騒を逃れて、間もなく小高いコッレ・デル・リスに挑んでいった。頂上までのスプリントはなかなかに騒々しいものだった。最大の理由は、プロトタイプの排気システムにはまだバタフライ弁が取り付けられていないからだ。プロダクション版はもう少し穏やかになるはずだが、ベッティはキメラを完全に黙らせてしまう気はないし、スーパーチャージャーとターボのサウンドも残す予定だ。エンスージアストの耳には、それも音楽として響くからである。ベッティ曰く、「マシンのただ中に」身を置いているのを常に実感できる。

私は下りもかなりのペースで飛ばしていたのだが、もっと速くなるとベッティは言う。さらにスピードにのせてコーナーへ飛び込めとけしかけるのだ。彼は国際的なラリードライバーだから、その言葉を信じてやってみた。すると、ブレーキをまったくかけなくても、キメラは少しもラインを外さずにクリッピングポイントに飛び込んでいくではないか。

ステアリングは信じられないほどダイレクトでクイックなので、握る手をずらす必要がほとんどない。それでもキメラは重心を軸に見事に旋回する。特に長いコーナーが大の好物で、ひもがついているかのように駆け抜ける。どうやら、これこそベッティのようなラリードライバーが好むセッティングらしい。ベッティの友人には、ランチアで2度WRCチャンピオンに輝いたミキ・ビアジオンがおり、このプロジェクトにも手を貸している。

EVO37と路面との接触を維持するのは、総鍛造アロイのダブルウィッシュボーンだ。スプリングの動きを制御するのはオーリンズ製ダンパーで、リアには2個ずつ装備する。タイヤは路面に沿って地震計の針のように滑らかに上下する。それでも、トリュフを探す犬の鼻ほど地面にぴったり張りついているわけではなく、サスペンションとダンピングがかなり硬いのは確かだ。とはいえ、吸収力も十分あるので、長距離ドライブも楽しめるだろう。

リアサスペンションにはオーリンズ製ダンパーを2個ずつ装着。

ブレーキは、前後とも同サイズのブレンボ製ベンチレーテッド・ディスクと4ポッドキャリパーだ。ブレーキペダルを踏めば、即座に余りある制動力が発揮され、まるでパラシュートを開いたようだ。EVO37の制動は非常に安定している。強力なだけでなく、直進方向からピクリとも動かず、ノーズダイブもほとんどない。

鍛造アロイホイールは、EVO37専用にデザインされた。

ステアリングも実に秀逸。常に軽く正確で、シャシーとのコミュニケーションも素晴らしい。これまた最高のドライビングマシン、エキシージを思い出した。あのロータスにF40のパワーを組み合わせたところを想像してもらえば、EVO37のスーパースポーツカーにおける立ち位置がかなり正確に分かるだろう。



さて、キメラEVO37の価格はというと、48万ユーロである。アルファホリックスのGTA-Rに比べればかなり高額だが、シンガー911やシアン・レーシングのボルボP1800とは同等。製造200台のみのオリジナルの037ストラダーレを購入するには、ほぼ倍の金額を積む必要がある。キメラの強みは、真の意味でレストモッドである点だ。ランチアが037の開発をさらに続けていたら、EVO37のようになっていただろう。オリジナルをあれほど魅力的にしていた美しさ、スピード、スタイルが、同等に、いやそれを上回るレベルですべて備わっている。

ベッティは、あらゆる手を尽くして037の魂を守ったと話したが、まさにそのとおりだ。彼がキメラをドリフトさせながらヘアピンを抜けた瞬間、その言葉が私の頭の中にこだました。エンジンの神々しい咆哮、スーパーチャージャーの猛烈な回転音、悲鳴を上げるタイヤ。1980年代初頭に、ワルター・ロールやマルク・アレンが037でやってみせたのと同じ、完璧なコーナリング。オリジナルの魂は、目にも耳にも鮮やかに、間違いなくそこに生きていた。

未来に目を向けよう。EVO37の製造を終え、納車を済ませたら、キメラ・アウトモビリ社のドアは閉じられてしまうのだろうか。もちろんそんなことはない。次にどのモデルで私たちを驚かせてくれるか、ルカ・ベッティは明かさなかった。しかし、意味深な笑顔で目を輝かせながら、「ランチア037と同じように、復活に値する興味深いモータースポーツの英雄は、ほかにもある」と話した。それだけ分かれば十分だろう――とりあえず、今のところは。

キメラEVO37
エンジン:2150cc、4気筒、16バルブDOHC、ボア×ストローク85×95mm、ギャレット製ターボ+ルーツ式スーパーチャージャー、空冷/水冷式インタークーラー、ドライサンプ潤滑方式
最高出力:505hp/7000~7250 min-1
最大トルク:600Nm(400Nm/2000min-1)
変速機:グラツィアーノ製6段MT、後輪駆動、セルフロッキング・ディファレンシャル
ブレーキ:4輪365mmベンチレーテッド・ディスク、4ポッドキャリパー
車重:約1000kg
ボディサイズ:4055×1905×1200mm、ホイールベース2520mm、Cw値0.50
タイヤ:フロント245/35R18、リア295/30R19
価格:480,000ユーロ
www.kimera-automobili.com


翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA
Words: Ton Roks Photography: Luuk van Kaathoven

オクタン日本版編集部

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