受け継がれる職人の想い│アストンマーティンDB4 GT再生産の方法は?

Photography:Mark Dixon/ASTON MARTIN



ワークショップのはずれのほうにはプロトタイプも置かれていた。別稿の試乗記事に登場する車である。じっくりと観察したが、完璧にレストアされたパーツなども組み込まれ、すでに完成されているように見えた。使われるパーツはほとんどすべてがイギリス製で、その多くは内製である。すべてのパーツが所定の位置に収まって、まったく新しいDB4 GTが完成すると思うとワクワクする。それはあたかも1960年代からタイムトラベルしてきたかのようである。通常のレストア車なら数十年の間に受けた災禍をくぐり抜けて今日に至る姿を感慨深く思うはずだが、ここにあるのはそれとは違う。当時の製造職人たちがこう作りたいと思いながらも、製造技術の理由からできなかったことを実現した車なのだ。
 
フロントまわりには、装飾のエンブレム、ナンバープレート、各種ストライプ、それにバッテリーのカットオフや消火器のスイッチを示す図柄が描かれているが、これらはすべてゲイドンの職人たちが心を込めて手書きしたものだ。「これはオリジナルのプロトタイプDP199と繋がっています。だからエンブレムはかつて獲得したル・マンの栄光を次代に受け継ぐために同じサイズにしているのです」とポールは胸を張った。それほどに彼らのレースへの思いは強い。安全に対する対応も万全で、すべての車にロールケージ、フルハーネス、消火システム、フォームを充填した安全燃料タンクが装備される。シートはコノリーレザーを一部使用した最新のレーシングバケットだ。  


 
メカニカル・スペックは扱いやすさを重視した結果、オリジナルとは多少異なっている。ギアボックスはオリジナルを複製したケーシングの中にドッグ・クラッチを入れ込み、エンジンはマレック設計の直列6気筒を、使いやすさを求めて3.7リッターから4.2リッターに排気量を拡大して用いる。また、カム・プロファイルをアグレッシブ方向にわずかに振ったこともあって出力は350bhpとなる。エンジンの鋳造は、アストンのGTプロジェクトを技術面で支えるグレインガー&ウォーラル社が受け持つ。

「彼らはオリジナルのヘッドやブロックをCTスキャンにかけ輪切りにしましたが、その甲斐あって、スタッド・タッピングがウォータージャケットに近すぎることがわかりました。おかげで本当に丈夫なエンジンができました。もちろん3000rpm付近の心地よいハーモニクスを失うことなくね。我々の時代にはかつては使えなかった新素材や表面加工技術があります。それで格段に強いエンジンやギアボックスを作ることができるのですから、使わないてはありません」

 
明るいグレー地に黒/白のストライプが入る1号車のボディカラーだが、当時活躍したのと同じカラリングとなるのは25台中わずか2台なのだという。色へのこだわりとともに驚いたのがアストンのエンブレムの位置だ。オリジナルのそれはボディ中央ではなくわずかに横にオフセットしていて、今回の25台も同じ位置に付けるのだという。そのためのテンプレートまで用意されていた。CADに頼っていたらこういうことは見逃していたかもしれない。60年たっても、伝統のア・シンメトリーは受け継がれたのである。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:John Simister 

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