ビビッドで潜在意識を心地よく刺激してくる車?!│ポルシェ911 2.8 RSRをドライブ

Photography: Gus Gregory

1970年代半ば、911ロードカーをベースにしたコンペティションモデルの最高峰に位置するのが2.8RSRだ。

ポルシェ911は、1963年に登場して以来、ずっと国際的な耐久レースの前線で活躍してきた、モータースポーツ界には欠かせない存在だ。最も実績を残したのは1970年代のことで、2.8RSRは圧倒的な速さと信頼性の高さで1973年の耐久レースを席巻し、その集大成をタルガ・フローリオで見せた。

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今回取材したこのRSR2.8には、1973年のタルガで8位、1975年のル・マン24時間レースでは総合17位、クラスで3位という輝かしいレーシングヒストリーが刻み込まれている。レース引退後の1988年から89年に掛けてポルシェ・ファクトリーでオリジナルスペックに戻す作業が行われているが、噂では、その費用はなんと30万ポンドにも達したという。さらに驚くべきは、1992年に現在のオーナーであるメクスバラ伯爵の手に渡るまで1度もロードカーとして使われたことがないことだ。ロードレースの血統書付きの1台としては納得できるヒストリーだ。
 
メクスバラ伯爵はそのヒストリーは人々を魅了し、ドライブすれば人を虜にすると語る。私も伯爵の意見に賛同するひとりとなった。ここまでビビッドで潜在意識を心地よく刺激してくる車を運転したのは初めてだ。今まで運転してきた経験は、この1台のステアリングを握るための準備期間に過ぎなかったとすら思った。
 
正直にいえば私は一目惚れしてまった。RSR特有の広がったホイールアーチ、スムーズな乗り心地、フックス社製ホイールとストレートスルー・エグゾーストなどは、内に秘めたメカニズムの威力を絶妙なバランスで覆っている。ハードウェアをひとつでもアップグレードするならば、アスリートの厚い胸板ではち切れそうなTシャツのように、もう抑え込むことはできないだろう。



ポルシェは2.8RSRを"怒らせる"ことは避けるべきだという。イギリス、ヨークシャーの田舎道を走らせてみると、RSRがみせる正確なハンドリング、信頼感、そして挙動変化の予測の容易さは抜群であった。最新のタイヤの性能によってRSRの荒々しさが抑え込まれているかも知れないが、根本的なシャシーのバランス感が丁度よい。リアに履いたワイドなタイヤのおかげでグリップは強力で、同時に優れたハンドリング特性から、ついつい限界に挑みたくなる。
 
ハードコーナリングを試すと、前輪が僅かに外に流れるように感じられるが、リアのグリップは強力で路面に張りつく。慣れてくれば、重心移動を上手に使うことでアンダーステアを抑え込むことが可能になる。本当に慎重になる必要があるのは連続するコーナーくらいだ。ワイドタイヤを履いたことでテールには癖があるのがわかるが、大きな変化は決して予測できないものでもない。
 
一般道ではこれ以上の冒険はできないが、この車は生涯かけて学び続けることができる1台だ。はやる気持ちを抑える必要のないサーキットでは、センセーショナルな体験になることは間違いない。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:数賀山まり Translation: Mari SUGAYAMA Words: Richard Meaden 

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