車と恋に落ちてもらうために│クラシックカーを「ドライブ」することの愉しみを

Photography:Gus Gregory

偉大なアストンマーティンにふたたび命を宿す―そう標榜するのがイギリス北方に本拠を構えるアストン・ワークショップだ。私は訪問を試みた。

英国のはるか北、ダーハム地方にビーミッシュ村はある。歴史書に出てくるようなひなびた村に行ってみても、アストンマーティンを世界で一番多く売り上げ、レストレーションでも成功を収めた会社がそこにあるとはちょっと信じがたい。現地に到着し、広大な敷地に建つ建造物を見てもそんな思いは変わらない。アストン・ワークショップはよくあるスペシャリストとは趣を異にしているからだ。

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アストン・ワークショップは1988 年にボブ・ファウンテンによ
って設立された。設立後ファウンテンが不眠不休で働いても、会社の経営は綱渡り状態で、ときに利益を上げるために進んで危険を冒したりもした。そんなどん底のワンマンバンドの会社をビジネスが成り立つようにするまで25年の歳月を必要とするのだが、ほとんど海外で生活していた彼は会社の経営から手を引くしかなく、代わりに経営を託したのが当時営業部長だったクライヴ・ディキンソンである。現在もディキンソンがこの会社の経営に当たっている。


 
到着した私を出迎えてくれたのもディキンソンだった。今風の
グレイの髪型に革のジャケット、デザイナージーンズをまとった彼は、アストンマーティンが本来もつイメージからはちょっとかけ離れた印象を与える。そういえばアストン・ワークショップそれ自体、成り立ちやロケーションも含めてちょっと違うのではと私は感じていた。しかしそれは自分が勝手に作り出したイメージにすぎず、彼の話を聞けば聞くほどそんな印象は吹き飛んでしまった。なにしろダイナミックでエネルギッシュ。彼らが挑戦的なビジネスに関わっていこうとする情熱は、まさにほとばしるという表現がふさわしい。

「私たちは完全なサービスを提供しようとしています」クライヴ
はレストア事業についてこう切り出した。「これまではパーツを供給する立場でした。世界中にたくさんいる、自分でレストアする人たちにインターネットを通じて部品を届けてきました。部品だけならそれでいいのですが、ペイントとなるとそうはいきません。小さな跳ね石の修復からクラッシュによる甚大なダメージの修理まで、私たちの工場では何にでも対応できます。最新モデルでもやります。しかし私たちが本当に目指しているのは、ただ売るにせよレストアするにせよ、クラシックなアストンを現代的に仕立て直すビジネスです。私たちはこれからまさにそういうことをしようとしているのです」

巨大なショールームを歩いていくと、バラエティーに富んだ車たちに出会う。DB4やDB5 、DB6 、V8などが汚れやシミひとつない状態で売れる日を待ち受けているのだ。なかでも完璧なオリジナル状態の塗装が美しいDBSには目を引かれた。またオリジナルのヴァンキッシュと記された車もあった。もちろんDBSはゲイドン時代のものも多数陳列されており、文字どおりどんな要望にも応じられるという。クライヴによればここで見せているのはほんの一部だそうだ。ここに入ってくる車は、レストア工場、塗装ブース、整備工場を経てからショールームに並べるのだという。

外に出て建物を眺めながらあらためてショールームの大きさや目もくらむような車列を眺めると、ただ「すごいな」という感情しか起こってこないが、隣接する整備工場(アストンマーティン社の認定済み)、パーツショップ、レストア工場に歩みを進めると、その運営規模の大きさにさらに驚かされる。それは駐車スペースにも表われている。ここでは顧客の駐車場は完全に二分されていて、ひとつは整備を受ける顧客用、もうひとつが整備受け付け(これがまた親身に対応してくれる)の順番待ち用。つまり、販売する車と整備が決まった顧客の車は、受け付け前の車とは完全に区分され、格別の注意が払われるということだ。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Richard Meaden

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