フェラーリ330GTCをコンクール・デレガンスに出してみた|審査員を魅了するには?

Gerard Brown/Salon Prive/Scott Pattenden

コンクール・デレガンスの新参者と度を超すほどにレストアされたフェラーリ、そして好奇心旺盛な『Octane』エディターを サロン・プリヴェの芝生の上に放ったらどういうことになるか。ジェームズ・エリオットがすべてを明らかにする。



このストーリーは世界で最も権威あるコンクール・デレガンスの芝生の上で始まり、もうひとつの芝生で繰り広げられたものである。2021年9月の『Octane』UK版(日本版では2021年12月のVol.36)には、イタリア人の特約ライターであるマッシモ・デルボがペブルビーチ・コンクール・デレガンスで審査員を務めた記事が掲載された。そのすぐ後に開催されたハンプトンコート・パレスでのコンクール会場で、私はベル・スポーツ&クラシックのトム・キングと他愛のない会話を交わしていた。その中で、1年かけて準備をし、第一級のコンクールである翌年のサロン・プリヴェには、メディアの立場ではなくエントラントのひとりとして臨むのはどうかとの話が出た。

未知への挑戦


このアイデアが現実味を帯びたのは、ハンプトンコートのベル・スポーツ&クラシックのブースにほとんど裸の状態の、フェラーリ330GTCのボディシェルが展示されていたからだ。それは魅力的な“ヴェルディ・キアロ・メタリザート”の塗色をまとっていたが、私の眼には単なるライトグリーン・メタリックに見えた。もし私に経験があったならば、これはコンクールで好成績を収められるカラーに映っただろう。それはオリジナル・カラーでもあった。シャシーナンバー“09069”は最初の年に生産された330GTCで、ピニンファリーナのアルド・ブラヴァローネがスーパーファストのフロント部分と275GTSのリアを融合させた過渡的なGTだった。わずか2年間に600台程度しか生産されなかった330GTCは、飛び抜けて華奢でキュートなプロファイルを特徴としており、曲線的なスタイルからエッジが目立つ世代のフェラーリへの橋渡し役のモデルでもあった。





運び込まれた直後、オリジナルの“ヴェルディ・キアロ・メタリザート”にレストアされる前の状態。インテリアはすべて修復可能だったが、黒いビニールトリムだけは黒とタンのレザー(当時のオプション)に交換された。

エンジンはより落ち着いた330GT2+2と同じく、ジョアッキーノ・コロンボ設計の300bhp仕様の4リッター60゜V12を、より短くスポーティーな275GTBと同じ2400mmのホイールベースを持つシャシーに積んでいた。ただし装備ははるかに豪華で、たとえばパワーウィンドーや分厚い遮音材を備え、2名の乗員をその荷物とともに快適に、そして高速で運ぶ性能を持ち、これまでで最も洗練されたフェラーリの長距離GTである。

この“09069”は1966年10月に、バロン・エマニュエル・グラッフェンリードが営むローザンヌのフェラーリ専門店を通じて最初にアルフレッド・ピンカスにデリバリーされ、続いてベネズエラに渡って銀行家のホセ・ディ・マセのものとなった。しかし金融危機でディ・マセが国外に逃れた後は、管財人のアルビン・ラファエル・アチェヴェードが所有したという。両者の係争の後、当時メタリックブルーに塗られ、かなり古びた09069は2015年にニューヨークのデニス・ロドリゲスに渡り、その後ベル・スポーツ&クラシックに売却された。そこで330GTCはレストアの順番が回ってくるのを忍耐強く待ち続けることになった。その頃、同社は330LMBリクリエーション(『オクタン日本版』34号に掲載)に手一杯で、2021年初めにその作業が終了した後、いよいよ330GTCの番となったのである。

ベルのレストア・チームは、実は6年前に330GTCが到着してすぐ、主な板金作業を行っていた。ボディシェルはほぼオリジナルで非常に良い状態にあったという。ただしサイドシルとドアパネル、リアクォーターのダメージ、そして鉛が詰められていたノーズの凹みを正しく修復する必要があった。



LMBの場合と同様にこのプロジェクトは、エリオット・イーストがチーフとして率いることになった。彼はレストアに心血を注いできた人物だが、私と同じく、ベル・スポーツ&クラシックもまたコンクール参加は初めてであり、それはまるで未知の土地への旅のようなものだった。頻繁に訪れていたおかげで、レストレーションについて、私は本当のオーナーと同じぐらい知っているとの自信があった。だが、問題は既にプロジェクトがスタートしている中で、誰かこのフェラーリのオーナーになってくれる人物がいるかどうかということだった。そこで登場するのがハートフォードシャーの不動産エージェントであるクリスティ・チルターン‐ハントだ。365GTC/4の元オーナーであるクリスティは“Octane”330GTCのオーナーとなった。

ただし、もしクリスティがコンクールに出場することに同意しなければ、この物語はこの時点で幕引きとなっていた。幸いなことに彼女は全面的に賛成し、重荷の1/3を負ってくれることになった。サロン・プリヴェが近づくにつれて、そのストレスは一気に大きくなったことを考えると実に有り難かった。





コンクールのための準備は一般的なレストアをはるかに超える。審査のためにあらゆる細部に桁違いの配慮が求められる。

「作業は順調に進み、イベントの2カ月前には走行可能の状態だったが、そこで事態は急に変わったんだ」とエリオットは語る。「初期型の330GTCはダンロップのC4ブレーキサーボを使用しているが、むろんそれも既にオーバーホールしてあった。ところが最初のテストドライブで壊れてしまった。我々は同じ部品を見つけることができず、結局イタリアに送って再度リビルドすることにした。そのために7週間も費やしたんだが、修理した部品はあろうことか2日間しかもたなかったんだ」

サロン・プリヴェまであと1週間という時点だったために、ほとんどパニックを引き起こした「幸運にも初期型のジェンセン・インターセプターに同じ部品が使われていることが分かり(ただしロッドの長さは異なる)、何とかスペアを提供してくれるジェンセンの専門家を見つけることができた」

イベント前に最後にワークショップを訪れたのはサロン・プリヴェの数日前、トランスアクスルはまだ外されたままだったが(ということはシートも取り外されたまま)、それを除けばほとんど完成していた。とはいえ、正しいステンレス・ストラップに取り替えなければいけないジュビリー・クリップ(ジュビリー社のホースクリップ)がまだいくつか残っていたが、美しくリビルドされたエンジンを取り巻くすべてのホース類やステッカー、バッテリーなどもすべて適切で、ワイヤハーネスやターミナル(250箇所!)も色やサイズが年代的に正しいものに交換されていた。無論、このレベルの精密さは驚くには当たらない。コンクールに出場する車は、審査のガイドラインブックに従って細心の注意を払って準備されていた。「それはもう私の“バイブル”になったよ」とエリオット。「車は真に完璧でなければならない。クラシックカーの新車を作ったつもりだ」と言うように、事前のチェックではフェラーリの専門家からも太鼓判を貰っていた。



インテリアはもともと黒いビニールトリム(ビニールは常に黒のみでレザーのみがカラーを選べた)だったが、オプションの黒とタンのレザーに張り替えられた。ただしアームレストだけは“バイブル”によればビニールでなければならなかった。審査員たちは気づいてくれるだろうか。またベッカーのラジオの中身は最新型に替えられ、アンテナも天井の内張の中に隠されていたが、さすがにそこまでは気づかないだろうと思われた。15インチのボラーニワイヤホイールに代えて、オプションの 14インチキャストホイールにミシュランXWXを装着、私の見るかぎりこの方がずっと似合っていた。



編集翻訳:高平高輝

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