19年間隠匿された!? ハリケーンから避難した20台のフェラーリ

Darin Schnabel ©2023 Courtesy of RM Sotheby's

2004年8月、ハリケーン・チャーリーがアメリカ・フロリダ州を襲った。猛烈な暴風によって甚大な被害が生じた上、竜巻が16個発生し、ハリケーンによる被害額としては米国史上2位となる150 億ドル近くもの経済的被害と全米で死者 10 人の人的被害をもたらした。

そんなハリケーン・チャーリーによって車庫が被害を受け、その存在が世間に知れ渡ることになったが、すぐにインディアナポリスのとある倉庫に移送されたフェラーリ20台はその後19年間、誰もどこにあるか分からなかった。

そんなフェラーリ20台がRMサザビーズのオークションに出品される、と話題を呼んでいる。毎年8月、アメリカ・カリフォルニア州で開催されるクラシックカーの祭典「モンタレー・ウィーク」に併せて、いわゆる“バーン・ファインド”が出品されているのだ。20台のリストはザッと以下の通り。

1978 Ferrari 512 BB Competizione
1965 Ferrari 275 GTB/6C Alloy by Scaglietti
1956 Ferrari 250 GT Coupe Speciale by Pinin Farina
1956 Ferrari 410 Superamerica Coupe Series I by Pinin Farina
1967 Ferrari 330 GTS by Pininfarina
1954 Ferrari 500 Mondial Spider Series I by Pinin Farina
1965 Ferrari 275 GTS by Pininfarina
1964 Ferrari 250 GT/L Berlinetta Lusso by Scaglietti
1971 Ferrari 365 GTB/4 Daytona Berlinetta by Scaglietti
1972 Ferrari 365 GTB/4 Daytona Berlinetta by Scaglietti
1968 Ferrari Dino 206 GT by Scaglietti
1960 Ferrari 250 GT Coupe Series II by Pinin Farina
1972 Ferrari 365 GTC/4 by Pininfarina
1966 Ferrari 330 GT 2+2 Series II by Pininfarina
1976 Ferrari 308 GTB ‘Vetroresina’ by Scaglietti
1969 Ferrari 365 GT 2+2 by Pininfarina
1965 Ferrari 330 GT 2+2 Series I ‘Interim’ by Pininfarina
1980 Ferrari 512 BB
1991 Ferrari Testarossa
1977 Ferrari 400 Automatic

1978年のル・マン24時間に参戦した「512BBコンペティツィオーネ」は元レーシングドライバーで、アメリカにおけるフェラーリ最大のディーラーを営んでいたルイジ・キネッティが主宰していた「ノース・アメリカン・レーシングチーム」から参戦したものだ。フェラーリが手掛けたル・マン仕様の512BBはたった3台というから、落札価格は相当跳ね上がることだろう。



1956年式の「250GTクーペ・スペチアーレbyピニン・ファリーナ」は、モロッコ国王、モハメッド五世が所有していたもので、スーパーアメリカのボディスタイルを持つボディは世界に4台しか存在しない希少なもの。シャシーナンバーやエンジンナンバーは新車時のものでマッチしており、写真ではとても“極上”とは呼べないコンディションだが170万~230万ドルの落札見込み価格が提示されている。



1965年式「275GTB/6C合金 by スカリエッティ」はトリノ・モーターショーに展示された後、1966年のタルガ・フローリオに参戦した車両だと言われている。当該、ロングノーズの275GTBは軽量化のために合金パネルを採用している最初の車両であるほか、6基のキャブレターを搭載している。落札見込み価格は200万~250万ドルだそうな。



1954年式「500モンディアル・スパイダー・シリーズI by ピニン・ファリーナ」は、スクーデリア・グアスタッラがフランコ・コルテーゼのために購入したもの。1954年のミッレミリアでは総合14位、クラス4位入賞を果たした個体だ。後にスカリエッティのボディを纏い、1956年のタルガ・フローリオに参戦。ボディは事故に遭ったままの状態だが、これでも160万ドルの落札見込み価格が掲げられている…



元々、購入してから動態保存されてきていた個体だが、ハリケーン・チャーリーによるダメージも負っている。それでもこれだけの落札見込み価格が掲げられているとは、クラシック・フェラーリの価値をつくづく思い知らされる。

もっとも、ちょっと調べてみると面白いことも分かった。

「ハリケーン・チャーリーから避難させて」という謳い文句はRMサザビーズがプレスリリースで発表しているもの。事実は、これらフェラーリ20台はウォルター・メドリン氏が文字通り「隠していた」ものだったのだ。

メドリン氏はフロリダ州の不動産開発会社経営者で、アメリカの国税局にあたるアメリカ合衆国内国歳入庁(以下、IRS )と常にモメていた人物である。メドリン氏は差し押さえのギリギリまで納税しない、という度胸の持ち主だった…

ハリケーンの被害でメドリン氏のフェラーリの所在が明らかになるとIRSは早速、1967年式フェラーリ330P4を差し押さえた。競売にかけられる直前になって、メドリン氏は納税し330P4を取り戻した。なお、1990年代にも複数のフェラーリを差し押さえられた経験があるメドリン氏は、1997年には所有するフェラーリの隠匿で収監された経験も持つ。

2004年にメドリン氏のフェラーリが意図せず公になってしまった後、また、これらのフェラーリは行方知れずになった、と言われている。少なくとも、RMサザビーズではそのように謳っているが…、インディアナポリス・スピードウェイの近隣にある建物に保管されてきたようだ。

具体的には1200 North Main通りという建物で、メドリン氏は「自動車やレーシングカーの博物館を作る」と息巻いていた模様。もっとも、それが真実なのか、ただ周辺住民や地元自治体を納得させる入居事由だったのか、今となっては定かではない。

いずれにせよメドリン氏、2013年から脱税で30か月収監され、ようやく自身のコレクションの放出とあいなった様子。「様子」と記すのは、売主が明確になっていないゆえにメドリン氏のコレクションなのか、メドリン氏が第三者に売却したのか不明だからだ。

8月に実際のオークションが開催されるまで結果は分からないが、まず購入時よりも遥かに上回る値段がつきそうな雰囲気である。IRSと勝負し、負け、収監され、最後にメドリン氏にクラシック・フェラーリが莫大な資産をもたらすなら…、凄い話である。


文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)

古賀貴司(自動車王国)

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