現地速報!発表前に完売した「XX」を名乗るフェラーリ初のロードカー、SF90XXストラダーレ&スパイダー

Ferrari

いつものようにフェラーリ・ロードカー部門の責任者たち、すなわちエンリコ・ガリエラ(販売とマーケティング)、フラビオ・マンツォーニ(チェントロ・スティーレ)、そしてジャンマリア・フルジェンツィ(技術開発)に、テストドライバーのラファエル・デ・シモーネを加えた4人による新型車のプレゼンテーションが始まった。

エンリコ・ガリエラ氏

フラビオ・マンツォーニ氏

ジャンマリア・フルジェンツィ氏

ラファエル・デ・シモーネ氏

ところはマラネッロ本社工場に隣接するかのテストトラック・フィオラーノ内の真新しい建物(アッティヴァ・スポルティーヴェGT)内。いつもは顧客のF1マシンやXXマシンが並ぶ場所にウェイティングルームが設けられ、4台のスペシャルなモデルが並べられていた。片側には599GTOとF12tdf。もう片側にはFXX-K EVOと599XX。その意味するところはすぐに明らかになった。その間に入るとすれば、一体どんなキャラクターのモデルだ?

実は我々報道陣へのプレゼンテーションに先駆け、約一週間に渡って購入を検討する(もしくはすでに決めた)特別な顧客へのこれまでになく大規模なスニークプレビューが行われていたのだが、車名だけは伏せられていた。エンリコが車名を発表する。その名は、SF90XXストラダーレ&スパイダー。XXを名乗る初めてのロードカーである。その心は、トラック専用マシンであったXXシリーズと、シリーズモデルの高性能版(スペシャルシリーズ)との間に収まる新たなモデルというわけだった。



ベースとなったのはSF90ストラダーレ&スパイダー。1000psの電動パワートレーンを積むミドシップのスーパースポーツである。そのパフォーマンスはロードカーの最高峰というべき限定スペチアーレモデル、ラ フェラーリをすでに上回っているから、事実上、マラネッロの量販ロードカーラインナップにおける最高のモデルだ。それをドナーカーとしてXXシリーズ級のマシンに仕立て上げる。つまり、SF90の“すでに常軌を逸する”ポテンシャルをサーキットで余すところなく、しかも誰が乗っても引き出せるように再構築したモデルがこのSF90XXストラダーレ&スパイダーというわけだ。

VIPユーザーから先、つまりメディアより前にプレビューしたということは当然ながら限定モデルであり、発表の時点ではすでに全量の行き先が決まっている。クーペは欧州価格77万ユーロ(現在のレートで日本円にして約1億2000万円強)で限定799台、スパイダーは85万ユーロで499台。来年24年の第2四半期、まずはクーペからデリバリーされるという。ちなみにXXと名乗るが、XXプログラムには参加できない。あくまでもXX流の性能を楽しむことができるロードカーである。

実物を見た印象はどうだったか。ハンマーシャークのようなマスクやキャビン周りの特徴的なデザインこそSF90っぽいが、全体としてみればまるで違う跳ね馬に見える。妖艶さが増し、そのうえ一層アグレッシブ。そう見える最大の理由はリアに大きな、けれども抑制の効いた固定式ウィングが備わっているからだ。フェラーリのロードカーが派手なリアウィングを装備することは稀れで、実は95年に登場したF50以来のこと。エンツォにしても、ラにしても、派手なデバイスに頼ることなく極上の空力性能を得てきた。





このデザイン上の方向転換を決断するまで、マラネッロは大いに議論を重ねたという。フラビオ曰く、「顧客からはもっと派手なデザインが欲しいと言われているマーケティングサイド、とにかくグリップ=ダウンフォースをいくらでも欲しいエンジニアリングサイド、それぞれの要望を叶えつつ、バランスの取れたデザインを実現するのがチェントロ・スティーレの仕事で、とても難しいことだった」

リアウィングだけではない。フロントには特徴的な二つのダクトが設けられた。これはSダクトと呼ばれるもので、ノーズ中央のボックスから空気を取り入れ、フロントにもダウンフォースを効果的に生み出す。カラーデザイン上のアクセントにもなっているあたり、チェントロ・スティーレのこだわりが見て取れよう。



そのほか、前後フェンダーの3つのルーバーなどはフェラーリらしさの象徴であり、そのモチーフをドアパネル内側にまで軽量化のため使うあたりも彼らの面目躍如というものだ。ちなみに全く新しいデザインとなったリアエンドはロングテール仕様で、シャットオフガーニーなど効果的なデバイスも備わった。ディフューザーは大型だが決して大袈裟ではなく、曲線の処理も美しい。こうして空力を徹底的に磨き込んだ結果、250km/h走行時に最大530kgというとてつもないダウンフォースを生み出している。







電動パワートレーンのシステム構成そのものはスタンダードと変わらない。バッテリーサイズも同じだ。しかしながら、F154FB型V8ツインターボエンジンは+17ps、三つの電気モーター出力は+13psとなり、システム出力は1030psに達する。数々のエアロデバイスを追加したにもかかわらず重量はマイナス10kg。パワーウェイトレシオは驚異の1.51kg/psを実現した(クーペ)。





もっともそのパワースペックの上がり幅、車重の減り方にさほどインパクトを感じないというむきもあるだろう。けれども思い出してほしい。SF90ストラダーレ&スパイダーはすでに高性能版など要らないと思われたほどのスペックを誇る、PHEVとしては軽量のマシンであった。XX化するに当たってむやみにパワーを引き上げることをせず、むしろすでに“高すぎる”パワーをいかに使いこなすかに焦点が当てられたのだ。空力性能を引き上げ、最新のシャシー制御技術を惜しみなく注ぎ込むことでそれを実現したのがSF90XXシリーズというわけであった。

F1の技術であるエクストラ・ブーストや、296シリーズで初採用したABSエヴォコントローラーなど、新たなテクノロジーを満載することで、ジェントルマンドライバーでもサーキットで千馬力のミドシップカーを自在に操り、楽しむことができるようになる。まさにXXプログラムの真髄を有する全く新しいロードカーの出現であると言っていい。



それゆえ気になるのは新型スポーツカーの発表において恒例のマラネロラップタイムだがラファエル曰く、「凄まじく速い」。計測は今年後半に行われるという。79秒と、すでにラ フェラーリより速いSF90ストラダーレのタイムを一体何秒縮めるのだろうか。

フェラーリマニアにとって憧れの頂点に位置するコルセ・クリエンティ。ASGTこそその本拠と言うべきで、ルマンを制した499Pもまたこの地が生まれ故郷である。新しいけれど、すでにマラネッロの魅力が全て詰まったというべき“シン聖地”から、XXのロードカーシリーズというまた新たな伝説が生まれたのだった。




文:西川 淳 写真:フェラーリ
Words: Jun NISHIKAWA Photography: Ferrari

西川 淳

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