美しきV6ミドシップ・フェラーリ|Ferrari 296 GTB

Ferrari

部分的踏襲は別にして、デザインにおいてここまで明確に「過去のレジェンドモデルのオマージュ」という表現を用いたフェラーリはめずらしい。その車こそ、わずか32台しか製造されなかった名機250LMである。個性的なボディフォルムに、V6エンジン+ターボ、ハイブリッド、ショートホイールベースなどを取り入れた、フェラーリ296 GTB。すべてが新しいフェラーリを、スペイン南部のアンダルシア地方で試した。


フェラーリの最新ミドシップ・スポーツである296 GTBは、新開発のV6エンジンにプラグイン・ハイブリッドシステムを組み合わせたという点において革新的なニューモデルである。

しかし、そのエクステリア・デザインは、マラネロの歴史に名を残すに違いないセンセーショナルな位置づけとは裏腹に、シンプルでバランスのいい美しさで仕上げられている。

250LMにオマージュを捧ぐ


真横から見るとキャビンの位置はやや前寄りだが、とびきりシャープなノーズから続くラインのなかに無理なく収まっており、破綻は認められない。いっぽうで、リアフェンダーの前方に設けられた丸形のエアインテークと、これに連なる筋肉質なフェンダーのラインは往年の250LMとうりふたつ。テールエンドにさりげなく添えられたダックテールも、同じく250LMに捧げられたオマージュだろう。

フロントの水平方向に長いヘッドライトはSF90ストラダーレに端を発するフェラーリ最新のデザイン言語に基づくもの。それ以前の、たとえば488GTBに見られる垂直基調のヘッドライトよりもはるかに洗練されていてエレガントだ。これとは対照的に、コンパクトな角型4灯式とされたテールライト周りは未来感が強い。エグゾーストパイプをセンターに据え、その周囲を立体的な造形で飾ったデザインも前衛的といえる。



キャビンの印象も意外なほど落ち着いている。これは、メーターパネルやステアリングなどにSF90ストラダーレと同じコンポーネンツが用いられていることを考えれば意外でしかないが、インテリアを担当したデザイナー氏によれば、ダッシュボードなどにつなぎ目などを設けない一体成型的な手法を用いることで洗練された美しさを表現したという。その理由は、「新技術のショーケース的な役割を担うSF90ストラダーレに対して、296 GTBは幅広い層に受け入れてもらうことを想定した製品だから」という。

296 GTBの心臓部は、すでに述べたとおり新開発のV6エンジンで、Vバンク角を120度まで広げると同時に、クランクピンがなす角度を120度としたクランクシャフトを組み合わせることにより、6つのシリンダーが一定間隔で次々と爆発(燃焼)を行なう等間隔爆発を実現した。これがエンジン音をチューニングするうえで極めて重要な役割を果たしていることは後述のとおり。また、ヘッドの位置を低くできる120度のVバンク角はエンジンの低重心化にも役立つ。さらにマラネロのエンジニアたちはふたつのターボチャージャーをVバンクの内側にレイアウト。そして排気系をほぼ水平に伸ばしてテールエンドまで導き、これによって排気効率の向上と軽量化を実現したという。ちなみにエグゾーストパイプはレーシングカーなどで広く用いられるインコネル製だ。



ギアボックスはSF90ストラダーレでデビューした8速DCTを採用。これはF1用ギアボックスのレイアウトを採り入れることでクラッチを小径化し、エンジンの搭載位置を下げる効果をもたらす。なお、3モーター・ハイブリッドのSF90ストラダーレは、モーターを逆転させて車を後退させる機能によりメカニカルなリバースギアを省略していたが、1モーター・ハイブリッドの296 GTBはエンジンで発電しながらモーターを駆動することができないため、8速DCTには機械的なリバースギアが内蔵されている。

文:大谷達也 写真:フェラーリ Words:Tatsuya OTANI Images:Ferrari

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