見る人すべてを笑顔にする!幸せを運ぶメッサーシュミット

Tomonari SAKURAI

「この車で走っていると、皆、笑みを浮かべてこっちを見てる。この車は皆を楽しませてくれる。そういう車なんだ」

クリストフ氏のご自宅を出発。これだけで絵になります。

そう話してくれたのはこのメッサーシュミットのオーナー吉田クリストフさん。クリストフさんはお母さんがフランス人。日本で生まれ17歳でフランスに移った。フランスで医学を学びマンガ家として活躍した、現代の手塚治虫のような人である。現在はアニメのコンテを作る仕事にも携わっているという。

これを見る人たちが笑顔になる幸せを呼ぶメッサーシュミットと魅力と語るクリタ・クリストフこと、吉田クリストフ氏。

そんな彼がメッサーシュミットに興味を持ち始め、イギリスで行われていたオーナーズミーティングに出かけ、眺めたり試乗したりした。購入を決めて支払いまで済ませたところで、置く場所がないことに気がつきキャンセルした経験もあるという。

そしていよいよ本格的に購入すると決めて探し始めた。コンディションと価格を見極めて見つけた車は、なんと日本の宇都宮にあった。吉田さんはそのメッサーシュミットを購入すると木箱に収めて船に乗せ、車両は遂にフランスの港に到着。メッサーシュミットKR200はヨーロッパに戻ってきたのだ。

フランスに到着し木箱空の開封の儀。※写真提供吉田クリストフ氏

フランスのノルマンディ、ルアーブルに到着したメッサーシュミットKR200を受け取りにいき、コツコツと自分でレストアをしていった吉田さん。分からないことがあれば南仏に住むメッサーシュミットの英国人のスペシャリストに手伝ってもらって今の状態にしていった。

フランスにやって来てからクリストフ氏によって塗装された。※写真提供吉田クリストフ氏

内装もクリストフ氏によってきれいにレストアされている。

ルーフというか、キャノピーと呼ぶ方がしっくりするパーツを手に入れ、自分のメッサーシュミットKR200に合うように削り込んで取り付けた。本来これは固定式で取り付けるのだが、それを脱着式にしたのがクリストフさんのメッサーシュミットKR200の特長の一つだ。取り外すことによってカブリオレとして走ることができるのだ。

キャノピーは横に開ける。乗り込むときはまず左足をいれて、右足をそのままペダルの方にすっと持っていきながらシートに納まる。こうするとスムーズに着座出来るのだ。

本来固定式のキャノピーを取り外し出来るようにしてある。その取り付けフックも違和感のないものを選んでいる。

元々はイギリスにあった個体のようで、当時の3輪自動車のレギュレーションに合わせたウィンカーなどが付けられている。メーターもマイル表示のものがついている。ダッシュボードに目をやると戦闘機のメッサーシュミットのメーターがずらり。これはマグネットで、こういったものが市販されているのを見つけて取り付けたという。

ウィンカー等の灯火類はその輸出国の道交法や時代によって色々ある。

ウィンカーレバー。マニュアルで戻す必要がある。

戦闘機のメッサーシュミットのメーターがマグネットになっているモノを見つけて取り付けてある。

メッサーシュミットKR200は有名だし、車の博物館などに置かれてることも多く、実車を見かけることもあるが、今回のように実際に間近で走らせるのをじっくり見るのは初めてだ。バイク用のエンジンのため、トランスミッションもバイクと同じ。そのためシフトの扱いが違う。

ザックスの200cc2ストエンジン。こう見ると、たしかにバイク用のエンジンである。

面白いのがバック。200ccの2ストのバイクエンジンにバックギアがあるわけではない。なんと点火時期を変えてエンジンを逆回転にするのだ。そのためバックにするには一度エンジンを切ってバック用のポイントに切り替えて再始動する。エンジンが逆回転になるのでそのまま一速にギアを入れて走ればバックになる。その気になればトップの4速でバックで走ることも物理的には可能なのだ。

右側の、一般の車ならドアポケットに該当するあたりからシフトレバーがにょきっと。ニュートラルの状態から1速は手前に。2速からは前に押す。バイクのギアボックスだからだ。一つ違うのはもう一つ飛び出しているレバー。これを握るとニュートラルになる。

エンジンの回転を正回転、逆回転は点火時期を変更することで行う。そのためポイントが二つあるのだ。※写真提供吉田クリストフ氏

200ccのエンジンは決してパワフルではないが、ちょっと大きめの大人ふたりが乗っても意外にもすいすい走ってくれる。着座位置が低いのでスピード感はかなりある。全方位を見渡せるキャノピーはまた何とも気持ちを高揚させてくれる。今ならケニーロギンスのあの曲が脳裏でBGMとして流れはじめてしまう。やっぱりマイクロカー(バブルカー)は楽しい。現在フランスでは、2週間おきにミニカーがおまけで付いてくる雑誌でマイクロカーシリーズが展開中。これがまた、良くこんなモデルを見つけてきてモデル化しているなと感心するのだ。普段こういったシリーズはお気に入りを時々買うだけなのだが、マイクロカーシリーズは定期購読していて、部屋にはもう数十台のマイクロカーのミニカーが陣取っている。その中からメッサーシュミットを引っ張り出して余韻を楽しんでいる。

「昆虫みたいでしょ」クリストフ氏の好きなキャノピーとエンジンフードを開けた状態で斜め前からの構図。

それを後ろから眺めてみる。エンジンフードにはスペアータイヤと燃料タンクが。

ちょっと角度を変えるだけでこんなにも表情を変える。何とも愛らしい車よ。

クリストフさんはもう一台興味深い車を所有しているが、それはまた別の機会に。またこちらでクリストフさんの作品を見ることができる。中にはこのメッサーシュミットが登場するアニメも。メッサーシュミット愛を感じる作品なのだ。


クリストフ クリタ
クリストフ・吉田を縮めてクリタ。これがペンネームの始まり。現在ではクリストフ クリタで作品を作られている。
メッサーシュミットの作品はこちら。


写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

写真・文:櫻井朋成

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