途中離脱もアリ? 軽いノリも魅力の旧車イベント、冬の「パリ横断」

Tomonari SAKURAI

正直に言おう。出遅れたのだ。パリ横断のスタートは8時から。この時期、日の出は8時半過ぎ。まだ暗い中での撮影を思い描いていた。

その日は予定よりも早く出発した。まずは給油が必要だったからだ。通常は近所のショッピングモールのスーパー系のガソリンスタンドを利用する。ここで給油した後、高速にアクセスしやすいので出かける前に給油というのはよくやるパターンだ。このショッピングモールにあるガソリンスタンドはクレジットカード払いで24時間営業。ポンプも13基ほどある大型のガソリンスタンドだ。スーパー系というのもありガソリンの供給も安定している。・・・と思ったのが間違いだった。

交差点を曲がって入口に近づくと、その広いガソリンスタンド内を車が右往左往しているのが隙間から見えた。イヤな予感がした。まず空いているポンプに着きカードで支払いの準備を整える。もちろんカードは正常で給油可能となり、給油口を開けてノズルを差し込みレバーを握る。しかし何も起こらない。

「そこ、出る?」と隣の人から声をかけられた。こっちも出ないし、あっちも出ないようだ。空いているポンプで片っ端から同じことをしてみる。カードの承認もできるし、何のエラーもなく給油するように指示される。しかしそれでもだめ。そんな中、給油している車がいた。動くかと聞くと「動いてるよ」と。慌ててその車の後ろについて待つ。しかし様子がおかしい。前の車の給油にやたらと時間がかかっている。レバーを握っても出てくるガソリンのスピードが極端に遅いのだ。「少しは僕の分も残しておいてね」と半分は本気で冗談を言った。

ようやく僕の番。今度はうまく行った。もどかしいスピードで何とかタンクが一杯になったが、すっかり時間をロスしてしまった。未だにガソリンの供給と価格は安定しない。今回はオクタン価95のレギュラーを入れたが、本来なら98のハイオクを入れたかった。スーパーのガソリンは安いが質が悪い。日本車やドイツ車はハイオク指定でなくともスーパーで入れるときにはハイオクを入れるようにとバイク屋に言われた。実際仕方なく95を入れたが、高速走行中エンジンが咳き込んでまともに走れないことがあった。

モトコンポのようなモトベカンMoby X7に跨がって仲間を待つ。

ヴァンセンヌ城前のスタート地点に着くといつもよりも車が少ない。到着した車はそこで停車したりせず、そのままスタートというやり方にしているからだ。車に乗ったまま受付でコース図が渡されそのままスタート。そこで待ち合わせをしていただろうドライバー達がやや戸惑う。停まろうものならスタッフにすぐスタートするようにとまくし立てられるからだ。なので、ガソリンスタンドで消耗した時間で余計に出遅れた感じがした。それでもJAWAを先頭にピカピカにレストアされたツェンダップの集団に出会えたし、それなりにまだ空気が青い朝のスタートを見ることができた。

ピカピカのツェンダップの先頭はVELOREX 560サイドカー付きのJAWA250。

ツェンダップの暴走族(笑)は隅々までピカピカにレストアされており、ヘルメットなどもそれなりにヴィンテージで決めている。

冬のパリ横断は、ヴァンセンヌ城をスタートしてパリをぐるっと廻ってまたここに戻ってくるというもの。寒いのでピクニックはなしだ。ただし、ヴァンセンヌの森の中にあるヴァンセンヌ競馬場の観覧席で昼食を楽しむことができ、こちらに参加する人はそこがゴールとなる。

2500時間をかけてレストアされたシトロエンSM Tissier。

女性ふたりでトライアンフTR3。

コースは受付をするまで知らされない。本日のコースはパリの北にあるモンマルトルの丘に向けてヴァンセンヌのあるパリ東側から反時計回りにぐるっと走る。モンマルトルを折り返し地点としてそこから南下。セーヌ川を渡った後はそのまま川沿いを通って東に進路をとって戻ってくる。「パリ横断」とはいうものの、今回は厳密にいうとパリを「横断」しない。

コースで停まれるのはモンマルトルの丘ぐらいで、あとは停まらず走り続けなければならない。これは公害を嫌うパリの意向だろう。モンマルトルの丘も10時半以降は車両通行止めになるのでそれまでに通過するようにとの注意書きもある。

モンマルトル共和国の鼓笛隊が旧車達を迎える。

モンマルトルの丘を登りはじめるともう旧車渋滞だ。何よりもいつも以上に排気ガス臭い。きつい丘を、トラクターの団体が黒煙を上げて登頂中なのだ。パリ市長が卒倒しそうな風景ではあるがそこに居合わせた観光客は大喜び。戦車のような低いディーゼルエンジンが鳴り響く。サンピエール教会前ではモンマルト共和国の鼓笛隊がそれを迎えた。

朝日を浴びながら丘を登り切るトラクターと旧車たち。

トラクターとソレックス。それぞれここまで登り切ったのだ。

パリ市内の最高速度は30km/h。事故が多いためと公害が理由だ。考えてみてください。東京都内の一般道の最高速度が30km/hに制限されたら!? 厳格に取り締まりをしている中を700台近い旧車が走り抜けていった。

日本車代表はMR2。MR2もヴィンテージの仲間入りか~。

そして意外とゴール地点に帰ってくる車は少ない。特にチェックポイントがあるわけでもないし、夏のようにゴール地点でランチというわけでもないから、適当なところで仲間と解散しちゃう。そんな、軽いノリのイベントだからこそたくさんの車が集まるのだ。

最終地点のヴァンセンヌ競馬場。

このパリ横断でようやく2023年の車のイベントの幕開けという感じ。(まだ、あちこちでクリスマスツリーが残ってるけど)2月のレトロモービルに併せたオークションが今月末から始まる。旧車シーズンの到来だ。

もちろん、ブブさんのピー(カササギ)が載った2CVも参加していた。


写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

櫻井朋成

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