仏流のコンクール・デレガンスはシャトーで過ごす優雅なる日曜日|Chantilly Art & Elegance Richard Mille 2022

DPPI, Alexis GOURE, Mathieu BONNEVIE

2014年よりピーター・オートとリシャール・ミルがじっくり育ててきたフランス発のコンクール・イベントは、ほぼ3年ぶりの開催となった。大枠は変らずとも隔年開催となったこのイベント。集まってくる車のクオリティの高さはそのままに、静謐でいてテンポよく駆け続ける、時間の流れを感じさせた。



秋晴れのシャンティが、貴重な車とエレガンスを嗜む人々のさざめきで包まれた。コロナ禍を挟んで2019年版が最後となっていた「シャンティイ・アール・エ・エレガンス リシャール・ミル」が、2022年9月、ほぼ3年ぶりに開催されたのだ。2014年の初開催から数えて今回は第6回目。そもそもの成り立ちと会期スケジュールをおさらいしておこう。

コンクールでレガンスの全盛期は1920年代で、その語源であるフランスで同種のミーティングを今日に即した形で復活させること、それがピーター・オートそしてリシャール・ミルの当初のアイデアだった。今やコンクール・デレガンスといえばカリフォルニアのペブルビーチやイタリアのヴィラ・デステ、最近では英国のコンクール・オブ・エレガンスが名高いが、フランス流のアート・オブ・ライフを称揚するコンクールとすること、それがシャンティイの第一義だった。

2018年以降は同じくピーター・オートとリシャール・ミルの手による「動的イベント」であるル・マン・クラシックと隔年開催の「静的イベント」という位置づけになり、2017年までに4回、2019年に第5回を開催した後、2021年に予定された第6回はパンデミック下で延期となった。そのため2022年に限って再びル・マン・クラシックと同年の例外的な会期で、久々にドメーヌ・ドゥ・シャンティイに選りすぐりのヒストリックカーが集ったのだ。

最後の開催だった2019年は約1万9000人の観客が訪れたシャンティイだが、2022年開催は約2万人を動員し、パンデミックに起因する中断などどこ吹く風、という盛り上がりを見せた。その理由をひとつに絞ることは難しいが、ブガッティにDS、マクラーレンにルノー、アストンマーティンにベントレーなど、現役コンストラクターが最新コンセプトカーを披露し、来場者投票でも競わせる点が新しいといえる。中でもルノーは「R5ターボ3E」、VWは「GEN.TRAEL」というコンセプトを、モーターショーに先駆けて発表したほどだった。ヒストリックカーと同じぐらい未来へのマイルストーンとなる車にも、コンテンポラリーな立場から注目や興味を寄せる、そんなフランス的な進歩観の表れでもある。

一方で、過去へのオマージュが殊更にリッチなところもフランス流。騎馬像の周りを前回はマトラのフォーミュラカーが埋め尽くしたが、今回はBRM、つまり2021年にF1デビューから70年周年を迎えた英国メイクスのレーシングカーたちが存在感を放った。他にも95周年を昨年迎えたカロッツェリア・トゥーリングの作品が多数集められ、1953年式ペガソZ102B 2.8トゥーリング(左上写真)らが芝の上に佇む様子は、圧巻の美しさだった。

コンディションを競うコンクール・デタでは、世界的なコンクールで数々の受賞歴を誇る1938年式ヒスパノ・スイザH6Bデュボネ・クセニアが、戦前クラスを制した。アールデコ期に数々の名作を手がけたパリ近郊のカロッツェリア、ソーチックが架装した空力ボディ。

コンクール・デレガンスは昔からの定石通り、車と乗る人の雰囲気、つまりコンセプトカーと並んで歩くモデルの佇まいとの審査。R5ターボ3Eのラディカルな演出に拍手喝采が飛んだ。

公式パートナーであるリシャール・ミルは毎回、趣向を凝らしたホスピタリティを展開することでも知られるが、電動化やグリーン化が大きなテーマである昨今、テラスからサロンまで、敢えて蔦や観葉植物でふんだんに覆うというシャビー・シックなデコレーションを展開した。

コンクール各部門のノミネートと発表、表彰後の「名誉の周回」は、噴水広場で行われる。階段にはレッドカーペットが敷かれ、前方の列はプレミアム・シートとなっている。

フォルクスワーゲンのGEN.TRAVELが観客の前で披露された様子。

また前回に続き、土曜にはコンクール出展車両の一部がシャンティイ周辺の100㎞強を散策するツアーも組まれた。フランスのカントリーロードのみならず、元シムカのテストコースとして知られるモルトフォンテーヌの43度バンクまで走れるとあって、エントラントたちからは少なからぬ好評を得ていた。

モルトフォンテーヌの最大43度もの傾斜をもつバンクを駆け抜けるヒストリックカーたち。前日のツアーでのワンシーンだ。

そして日曜は普段はドメーヌ内では禁じられているピクニックが、特別に認められる機会でもある。それこそヒストリックカーのオーナーのみならず、来場者が気軽に実践できる楽しみといえる。アートやエレガンスとは、奥義は深くても間口は広く、求める人々を冷たく拒絶することはない。むしろ誰にでも開かれたものなのだ。

ドメーヌ内には競馬場兼ポロのコートも。ポロの試合を観戦しながらのランチ。

そもそもドメーヌ・ドゥ・シャンティイとは?


シャンティイは城だけではなく、場内の美術館とそのコレクション、周辺の森や庭園などで構成される8000ヘクタール近い広大なドメーヌ。CDG空港から約50㎞の至便さだ。近世よりブルボン王家の従兄弟コンデ公に受け継がれ、19世紀末からフランス学士院の所有となり、現在は財団が運営する。庭園はヴェルサイユ宮殿と同じくル・ノートルの設計だ。ルネサンス期の傑作絵画も所蔵し、コンクール・デレガンス会期中も公開されている。




まとめ・文:南陽一浩 Edit and Words.: Kazuhiro NANYO 
Photography: DPPI, Alexis GOURE, Mathieu BONNEVIE

まとめ・文:南陽一浩

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