なぜ斬新なのにシトロエンに見えるのか? C5 Xの世界観をカラーデザイナーが解き明かす

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――だから、そう、なぜこんなに正確な幾何学模様が同じピッチで現れるのか?というナゾが生じます。

YC/まさしくそこで、それを避けるために多くの車は通常、ダッシュボードに革シボを用いいます。引っ張って伸びても自然というか、ある程度目立ちません。幾何学系は変形した時に当然、目立ちますから、今回は金型をレーザーで直接切削しているんです。

――金型をレーザーで正確に彫り込むってことですね。

YC/はい。通常のプロセスであれば、日本のメーカーでは「木型貼り込み確認会」って呼んでいましたが、貼りこみ状態を目で確認しながら、この繋ぎ目を直して下さい、といったやり取りがなされるんです。でも今回のシュヴロン柄は、3Dデータを貼り付けられてやってきて、3D画像をクルクル回して、あ、ここのシュヴロンが歪んでいるんで直して下さい、みたいな。



――もうじゃあ検品は、画面の上で…。

YC/そうなんですよ。でも3D画像だと拡大したり引いたりできて、それこそ遠隔でも見せていただいて、あーちょっとここ、方向を変えて欲しいです、と伝えると、もう3Dデータがマッピングされているので、はいはいってすぐに直してもらえる。PSAとしては初めてこのプロジェクト(C5 X)でやったんですよね。最近になって、他でもやっているところがあるという風に聞いていますが。

――すると、3Dデータを金型表面にマッピングして、直接レーザーで彫り込んだ高精細な柄をあしらったダッシュボードを、C5 Xは市販モデルとしてかなり早いタイミングで、採用・実現できたと。レーザー精密切削。

YC/ええ。もちろん他にやられているメーカーさんもあると思いますが、PSAの設計担当者も初めての試みだといっていましたし、Dセグとしては早く活用できましたね。ちなみに発表資料には載らない話ですけど、工場のシボ開発担当のおじさんから退職する間際に「きみには苦労させられたよ」って、最後に捨て台詞をいわれちゃいました(苦笑)。「あれは、PSA最初の試みで大変だったよ」って。

――恨みとも褒めともとれる、ひと言ですね(苦笑)。

YC/ええ、けっこう気難しい職人肌の方で、色々と怒られながら(笑)。試作をポワシー工場で作ってもらっていたんですが、すごくキレイに出来たのがあったから、「いいじゃないですかこれ、ひとついただいていっていいですか?」って尋ねたら、「お前はそうやって持って行っては、出来た出来たって見せて歩いて、まだ物性試験もしてないのに。そんなのが採用になったらまた面倒が起きるからダメだダメだ!」なんていわれて。でも、ここだけください~と私も引かず(笑)。で、実際に(デザインスタジオに)もって帰って、人に見せていたら採用になりまして。おじさんの言う通りの流れだったかもしれません…。

――(笑)そんな丁々発止の末に、あのダッシュボードが実現しているんですね。ところでカラーデザイナーとしての今後についてお聞かせください。シトロエンはいつも逆を突くイメージもあって、今回もあえてグレーで加工・加飾の面白さで魅せてくれて、この試みはほぼ達成できたと考えられますけど、カラフルなものに元々魅せられてシトロエン入りした経緯があるじゃないですか。それに今、再びカラフルなものが求められている雰囲気もあると思います。これより先、どんなプロジェクトを手掛けてみたいですか?

YC/今現在の進行形のプロジェクトは語れませんが、やってみたいものとしては、コストを抑えた、超ローコストな車に興味があります。それこそシトロエン・アミが今、欧州にはありますけど、あれってすごく合理的で、フロントとリアが同じ金型なんですね。左右も同じ。つまり金型が半分で、一台のアミが出来ているんです。

――(笑)いわれてみれば。

YC/自社製品ですけど、見ていて楽しいと感じるんです。あれも、ひとつのチャレンジじゃないですか。今回フラッグシップをやらせていただいて、沢山、細かいところの造り込みを経験させてもらって。その次は?と聞かれた時は、逆に予算の制限があったり、条件が厳しい中でのデザインからカラーマテリアルって何ができるかなというところで、挑戦してみたいと感じます。制限のある中でモノを作る、これとあれを一緒にこうしたら、効率性が求められるかな、という。

―-やりくり上手であることが求められる仕事。

YC/カラーデザイナーって、最後の最後で「ここのところ、もうちょっと素材のグレードを落とせないか?」といった、そういう調整ごとが多い仕事なんですけど、いい落としどころを見つけることが、私の好きな作業なんです。人によってはコンセプト提案とか、未来の素材とか、色々あります。探すのが得意な人もいますし、私は自分としては、そういうところを突き詰めてみたいですね」。





シトロエンとくにビッグ・シトロエンは、しばしば難解であることに存在理由があるかのように伝えられてきた。だがC5 X特有の柔らかなグレー・トーンの背後には、確たる独特のモダン・タッチが隠されており、それこそ柳沢氏の手にかかれば、まるで易々とひとつひとつの施錠が解かれるかのように、より身近なものとして感じられてきたのだ。


文:南陽一浩 写真:南陽一浩、シトロエン Words: Kazuhiro NANYO Photography: Kazuhiro NANYO, Citroën

文:南陽一浩 写真:南陽一浩、シトロエン Words: Kazuhiro NANYO Photography: Kazuhiro NANYO, Citroën

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