なぜ斬新なのにシトロエンに見えるのか? C5 Xの世界観をカラーデザイナーが解き明かす

Citroën

いわゆる自動車のデザインは、エクステリアやインテリアそれぞれのデザイナーの仕事だけで成り立っている訳ではない。目で見て、車内空間に身を置いて、シートやスイッチ類に触れてみて、といった体験を通じて得られる静的質感上のフィールは、じつはカラーマテリアル担当のデザイナーによって細かにコントロールされている。いわば内外装の造形デザイナーの素描と、実際に工場生産される市販の完成車の間で、車の世界観そのものを演出し作り上げるのが、カラーデザイナーの腕の見せどころという訳だ。

C6そしてC5以来という、非ハイドラクティブ世代として初のフラッグシップとなるC5 Xのカラーマテリアルを担当したのは、日本出身のカラーデザイナーであり2015年からシトロエンのデザインスタジオに籍を置く、柳沢千恵氏だ。満を持して投入されたシトロエンの新たな旗艦モデルの世界観を、柳沢氏は分かりやすく解きほぐしてくれた。





――まず内装の印象ですが、C3エアクロスから見慣れ始めた、ソファのようなシートに水平基調のすごくワイドに見えるダッシュボード、といった直近のC4にまで共通する構成要素は共通で、ひと目見てシトロエンと分かる車内空間ですよね。でも同じグレートーンなのにC5 Xのインテリアは、格上感というかキチンとレベルが上がったことが表現されています。グレートーンで行くという判断はどこから来たのですか?



柳沢(以下YC)/じつは当初は様々な色があったんですよ。やはりシトロエン自体が色々なカラーを沢山使ってきて、それがらしさだったりするところもありますから。ただしDセグメントのサルーンの顧客を見たとき、任意の1色をとり上げてその色でいいのかと考えると、どれも一長一短ありますよね。グレーでニュアンスカラーのみ、としたのは、シトロエンとしては冒険なんです。保守的に見えるかもしれませんが、あえて色を使わないというのは、大きな決断でした。

――それは、どなたが提案したのですか? どうやったらどのぐらいいける、という見込みは、後からついてきたのですか?

YC/デザインチーム内の色々な担当者たち話し合いをしながら、ですね。やはり黒くしないようにしよう、というのは共通認識としてありました。

――いわれてみれば、真っ黒い部分って、見当たらないですね。

YC/はい、少しでも光を感じられるようなインテリア、という方向性ですね。エクステリアに関しても、日本では4色、グリ・アマゾニット、ブルー・マグネティック、ノワール・ペルラネラ、ブラン・ナクレが用意されていますが、欧州ではグリ・プラチナム、グリ・アルタンスという6色でグレーが3種類あるんです。このクラスの顧客がそういう繊細なところ、色のニュアンスで選ばれるというところで用意したものです。



――カラーデザイナーはボディカラーのバリエーション決定はもちろん、コミュニケーションカラーの選択も担当されるんですね。

YC/ええ、ボディカラーもそうですが、全素材の表面処理を見るのが仕事といいますか。触れる部分の素材すべて、という言い方をしています。

――ではC3やC3エアクロスで印象的な、蛍光オレンジといったアクセントも、柳沢さんの手によるものですか?

YC/あれはまた、何人かいる別のカラーリストの一人によるもので、私が直近で担当したのはC5 X、その前がC4カクタスのマイナーチェンジでした。その間に、細かいものもちょこちょこ担当しておりまして。でもC5 Xは開発期間も長かったので、カラーデザイナーが最初から最後までできるというのは珍しいことなんですね。幸運なことに、この車については初めのブリーフィングから市販ローンチまでやらせていただいたんです。他のプロジェクトは、デザインが決まった後に量産化に落とし込んでいったり、その逆や途中からといったパターンも幾つかあります。

文:南陽一浩 写真:南陽一浩、シトロエン Words: Kazuhiro NANYO Photography: Kazuhiro NANYO, Citroën

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