ボルドーの一流シャトーが世界最高クラスで在り続ける理由

Chateau Pichon-Longueville Comtesse de LalandeのGeneral Director兼醸造家のニコラ・グルミノーさん



収穫年ごとに個性が異なるボルドーのワイン


ボルドーは、温暖な海洋性気候で、年によって雨がよく降る。またカベルネ・ソーヴィニョンのように成育期間が長く、遅い収穫のブドウ品種の場合、成熟を待つ間に秋雨に降られてしまうリスクもある。そういった時には、メルローのような早期に成熟する品種が助けになる。逆に、メルローが難しい年には、カベルネが良く育つ場合もある。

ニコラさんは、ピション・ラランドCEOに就任した2012年を、「最も難しい年だった」と回顧する。収穫が始まった9月末は、暖かく雨がよく降り、熱帯雨林のような気候が続いたことにより、ブドウの腐敗が急速に進んだ。さらに、ワイナリーの電気の供給が一時断たれるという事態が重なり、就任早々、非常に難しい状況を指揮することになった。

「ブドウの腐敗のスピードは非常に速く、一晩で1区画のブドウを失うほどで、多くのメルローを失いました。結果、この年のワインは、通常の半分程度の量となりました」

反対に、ニコラさんに、これまでで最高の、理想的だった収穫年を聞いてみたところ、2019年という答えが返ってきた。

「すべてが適切かつ完璧なタイミングで起こりました。必要なときに雨が降り、病害や腐敗のプレッシャーもなく、最適なタイミングで収穫の時期を決め、完璧な状態のブドウが収穫できました」

(左)2008年のマグナムボトル。(右)シャトーでの食事会では、1988、1983、1978、1961と熟成したワインも供され、ワインとともに過去を旅する体験となった。

さらに、2017年あたりから前述の畑への改善など、自分が変えてきたことの結果が出だし、思い描くワインを造ることができる素地ができていた。「2019年はこれまでで最高の収穫年です」と自信を持つ。

筆者にとって、その年のワインは、当時の思い出が刻まれたものであり、ワインを味わうことはそうした思い出を振り返るきっかけにもなる。2021年は、私たちにとっても困難な状況が続いた年だったが、これらのワインが熟成を経たころには、笑顔でそのワインを楽しむことができることを祈りたい。



文・写真:島 悠里 Words and Photography: Yuri Shima


*本記事はForbes JAPANからの転載です。

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