栄光の「GT40」の名称を使えなかった意外な理由とは|フォードが生み出した最高の4モデル【後編】

Dean Smith



2016年に登場した最新のGT

面白いもので最新のGTがデビューした2016年。“旧型モデル”となった2004年~2007年式からの乗り換え需要が発生し、相場はグンと下がった。新旧GTの共通点は名称以外、何もない。最新モデルはカーボンファイバーが多用してツインターボチャージャー付き3.6リッターV8エコブーストエンジンを搭載し、ル・マン24時間に参戦することを、確実に、間違いなく、念頭に置いていた。

元々、フォードはル・マン24時間のためにマスタングがベースのマシンを造るつもりだった。だが、販売を伸ばす、イメージを向上させるという、ふたつの目的を達成するには通常の量産車とは一線を画す必要があることに気づいた。そして、また少数精鋭のエンジニアたちが結集したスカンクワークスが結成され前回同様、秘密裏にプロジェクトが進行・完成した。

満を持して投入された最新のGTは新車時価格45万ドルと、大衆車メーカーであるはずのフォードとしては驚異的だった。自信の表れでもあるのだろう。1350台の限定生産で既に完売しており、2022年には生産を終了する。いわゆる“現行”モデルは値下がりしたことがないばかりか、最終ロットはプレミアム価格でも買い手がついた。



フィリップ・ウォーカーが最新のGTを入手するまでには実に4年の歳月を費やした。彼の手物にあるGTは2020年式の「カーボンシリーズ」と呼ばれるもので、カーボンファイバーホイール、チタン製エグゾーストなどを採用したことで、18㎏の軽量化が図られている。

「新旧のGT(GT40ではなく)を比較してみると、前者はサーキットも走れる公道仕様車。後者は公道走行も可能なサーキット仕様車と、そういった雰囲気を感じ取っています。サーキット仕様車というとハードコアな響きがありますけど、毎日の通勤に使えそうなほど快適ですよ。ただ、パートナーとドライブにでかけてどこかに宿泊しようと思っても文字通り、歯ブラシ分くらいしか荷室はありません」フィリップによるオーナーならではの分析だ。

2020年式のステアリングホイールに配されたボタンやスイッチを見るだけで、サーキット・マシンであることが伺える。

最新GTのサーキット・マシンとしての血筋は、車内から感じ取ることができる。2004年式GTよりも2インチもワイドになっているにもかかわらず、ドライバーとパッセンジャーは固定式のシートにレーシングドライバーのように収まる。シートが動かない代わりに、ドライバーのペダルボックスは可動式になっている。サーキット・マシンのようなステアリングホイールには使いこなせる自信を喪失させるほど多数のスイッチが配され、7速セミオートマチック・トランスミッションのパドルシフトが装備されている。

2005年式と2020年式の GTは外見こそちょっと似ているがまったく異なる性質を有している。

ステアリングホイールに配されたノブを捻り「トラックモード」を選択すると、瞬時に車高が“落ちる”ことで乗員の闘争本能に火をつける。インストゥルメントパネルに目を向けてみると細長い六角形部分にスイッチ類が収まっている。なんとなく既視感があるのは、1967年に登場したランボルギーニのコンセプトカー、マルツァルに似ているからだろう。

GTはサーキット・マシンとして1964年に産声をあげ、2004年にはロードカーとして復活し、2016年にはサーキットに焦点を当てた公道/サーキット・マシンとして進化を遂げてきた。GT40によるル・マン24時間での歴史的快挙から50年。2016年、フォードはGTで再びル・マン24時間に参戦しLMGTEプロクラスで1位、3位、4位フィニッシュ。フェラーリ488はフォードGT勢に前後を挟まれた2位だった。輪廻転生とは言い過ぎだろうか。

2005年フォードGT
エンジン:5409cc、合金製、ドライサンプ式、V8DOHC、イートン製スーパーチャージャー、電子制御式燃料噴射装置
最高出力:550bhp/ 6250rpm 最大トルク:500lbft/3750rpm
トランスミッション:6段 MT、後輪駆動 ステアリング:ラック&ピニオン
サスペンション(フロント/リア):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、不等長コントロールアーム、テレスコピックダンパー、アンチロールバー
ブレーキ:ベンチレーテッド、ABS、EBD
車両重量:1580kg 最高速度:205mph 0-60mph加速:3.7秒

2020年フォードGTカーボンシリーズ
エンジン:3497cc、V6DOHCツインターボ、電子制御式燃料噴射装置
最高出力:638bhp/ 6250rpm 最大トルク:550lbft/5900rpm
トランスミッション:7速 DCT、後輪駆動 ステアリング:ラック&ピニオン、パワーアシスト
サスペンション(フロント/リア):ダブルウィッシュボーン、コイルスプリング、電子制御式テレスコピックダンパー、アンチロールバー
ブレーキ:カーボンセラミック・ディスク、エアブレーキ
車両重量:1367kg(乾燥重量)最高速度:216mph 0-60mph加速:2.8秒



編集翻訳:古賀貴司 (自動車王国) Transcreation:Takashi KOGA (carkingdom)
Words:Mark Dixon Photography:Dean Smith

編集翻訳:古賀貴司 (自動車王国)

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事