「なんて車だ!運転すると陶酔感が押し寄せてくる」|フォードが生み出した最高の4モデル【前編】

Dean Smith

一度では飽き足らず二度挑んだレース史に残る名車の復刻。オリジナルGT40のDNAがどれほど継承されているのかを探求する。



レース仕様のフォードGTを運転するには、オースティン・セヴンがうってつけだと誰が想像しよう。スラクストンのピットレーンでクラッチを緩やかにリリースし、ボラーニ・ホイールを履くフィリップ・ウォーカー所有の美しいフォードGTロードスターを動かそうと試みる。一度のストールはご愛嬌。だが二度、三度と続いた。それでも恥ずかしくはない。



フォードが投入したGTでフェラーリの王冠を奪おうとした1964年のル・マン24時間スタート時、フィル・ヒルでさえグリッドで“シャシーナンバー102”をストールさせたのだから。予想に反してクラッチはまるでON/OFFスイッチのようで、4.7リッター(289cu-in)のV8エンジンの低速トルクを頼りにすることはできない。同時に、エンジンの回転数を上げ過ぎてはクラッチを壊しかねない。発進させる秘訣はクラッチが繋がった瞬間に、アクセルペダルを踏み込むこと。当たり前のように聞こえて意外と難しいが、オースティン・セヴンに乗り慣れた人には馴染みのある運転方法だろう。

フォードGT


発進がきまれば…、なんて車だ!見ているだけでも美しい車、運転すると陶酔感が押し寄せてくる。当該車両は車両重量1トン未満ながら搭載しているV8エンジンは、シャシーダイナモで460bhpと計測されているので、遅くはない。GTプロトタイプは7台のクーペ、5台のロードスター、合計12台が製造され、やがてGT40へと進化し1966年から1969年にかけてル・マン24時間の表彰台を連続でフォードがフェラーリから奪い去った。

フォードがフェラーリを買収しようとして失敗しGTプロジェクトを立ち上げ、フェラーリが自分たちの“裏庭”のようにとらえていたル・マン24時間という舞台で勝負に挑んだ話は様々な雑誌や書籍、そして本誌でも取り上げてきた。ちなみに英国版『Octane』206号ではマークI、マークIIIの市販車と、マークIのレースモデル“1027”を比較したことがある。1967年にロードカーとして少数のマークIIIが販売されて以降、「GT」の名称はフォードのスポーツカーに二度、用いられた。2004年にレトロなデザインをまとったフォードGTが登場し、2016年にはまったく新しい“方程式”を用いたフォードGTが投入された。気になるのは、初代フォードGTと2世代(今のところ)に共通点を見出せるのか否かだ。スラクストン・サーキットでクラッチ操作に慣れようとしているのは、この疑問を解決するためだ。

4台の新旧フォードGT


白の1964年式GTロードスター、シルバーの1966年式GT40マークI(1041)、赤い2005年式GT、シルバーの2020年式GT、いずれもフィリップ・ウォーカーの所有車だ。フィリップ・ウォーカーは“1041”でたびたび表彰台に上っている経験豊富なレーシングドライバーで、彼ほどフォードGTについて造詣が深い人物はそうはいない。

エンジンやドライブトレインはほぼ変わらず、エグゾーストノートもほぼ同じ音色だ。

このうちの1台、1964年GTロードスターは、オリジナルとまったく区別がつかないほど精巧に造られたレプリカである。以前、フィリップは“GT/111”をレストアして売却したのだが、恋しくなり残っていたレストアパーツをかき集めてレプリカを造ったという。

「GT/111は、1964年のタルガ・フローリオにボンデュラントとウイットモアが組んで走らせたマシンでした。長い間、失われていたと考えられていましたが、ロンドン・オリンピックの建設工事に伴って取り壊していたガレージで発見されたのです。2007年のグッドウッド・リバイバルでマシンをお披露目して、ポルトガルの紳士に売却するまでヨーロッパ各地でレースしました。売却して得た資金でクローズドボディの“1041”を購入することができました。クローズドカーのほうがロードスターよりもちょっと速いのではないか、そんな淡い期待を抱いていたのですが、元F1ドライバーのリチャード・アットウッドがいうように、ほとんど関係ありませんでした。ロードスターのほうがドライバーズ・シートからの視界は優れていますが、コクピットがとにかく暑いんですよね。どういう理屈なのか定かではありませんが、エンジンベイの熱がコクピット内に侵入するんです」

1041でたびたびレースに参戦してきたフィリップ・ウォーカーは、いつしかロードスターが恋しくなり、GT/111のレストアで余ったパーツを用いただけでなく、スペアのボディパネルまで作っていた。

「ローマン・コレクションのGT/112を購入した際、実は車両からボディパネルの“型”を作っていたんです。だから、GTに似せた、というよりもGTの完全コピーを造ったようなものです。オリジナルのシャシーナンバーはGT/112までしか存在しませんが、このレプリカでは、あえて113をスキップして114を与えてみました」と続けた。

GT/114の実力


114は公道走行可能車両だが、レーシングカーさながらの雰囲気を醸し出している。キーを捻って4.7リッターV8エンジンを始動させると、まるでピストンが上下する様が背後から聞こえてくるほど荒々しいサウンドがこだまする。ドライバーズ・シート(当然ながら右ハンドル)右側のサイドシルに配されたシフトゲートで1速は左手前側にひく。シフト操作は正確で扱いやすい。ステアリングは軽く、まるでゴーカートのようなダイレクト感が味わえる。アクセルペダルを踏み込むと、図太く力強いV8サウンドが響き渡る。

フィリップ・ウォーカーのGT/ 114はGTプロジェクトで5台が生産されたロードスターのレプリカ。ワイヤーホイールを履いていると上品さが漂うかもしれないが、サーキットでのパフォーマンスはクローズドボディのGT 40と変わらない。

ロードスターは強烈な個性を放ちながらボラーニ・ホイールと相まって、後継車では感じられない高級感すら漂っている。だが、公道走行車両として欠点がないわけではない。ON/OFFスイッチのようなクラッチはさておき、車内は結構な温度にまで上がり、荷物を置くスペースは皆無である。もっとも荷物を置くスペースに関しては、2016年モデルも“伝統”を引き継いだかたちになっているが。

本物の実力、マークⅠ


GT40マーク1/シャシーナンバー1041は戦闘力丸出しのサーキット・マシンでありながら、思いのほか運転はしやすい。経過年数のおかげで部品が馴染んでいるからかギアチェンジは心なしか緩く、ステアリング・レスポンスは抜群だ。ストレートマフラーが奏でるV8サウンドはロードスター同様の轟音だが、クローズドボディゆえに車内は若干、静かに感じる。1041は1966年、ベルギーのアマチュアレーサー、ジャン・ブラトンに納車され、常にサーキット・マシンとして用いられてきた。



「この車は私たちが望むように仕上げています」とフィリップはいう。“私たち”というのは、このGT40を、ゴードン・シェドン、マイルズ・グリフィスと共有しているからだ。

「コーナー進入時のブレーキングが遅れるとテールが暴れますが、パワー、制動力、ハンドリングの面でとてもバランスが優れています。そして、サーキットを何時間周回しても平気な本質的な強さを持ち合わせています」と続けた。

1964年(2019年生産)フォードGTロードスター・レプリカ 
1966年フォードGT 40
エンジン:4736cc V8 OHV 4連ウェバー製ダウンドラフト・ツインチョーク48 IDA キャブレター
最高出力:375/380bhp / 6700rpm 最大トルク:380/400 lb-ft/5600rpm
トランスミッション:5段MT、後輪駆動 ステアリング:ラック&ピニオン
サスペンション(フロント):ダブルウィッシュボーン、アンチロールバー
サスペンション(リア):アッパー&ロア・トレーリングアーム、トランスバース・アッパーリンク、
ロアー・ウィッシュボーン、コイルスプリング、テレスコピックダンパー
ブレーキ:ディスク 車両重量:1000kg以下 最高速度:185mph



・・・後編に続く


編集翻訳:古賀貴司 (自動車王国) Transcreation:Takashi KOGA (carkingdom)
Words:Mark Dixon Photography:Dean Smith

編集翻訳:古賀貴司(自動車王国)

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