「ビッターSC」は知る人ぞ知る激レア車|かつてオクタン編集長も所有していた!

The Market by Bonhams

ビッターというブランドをご存じだろうか。ドイツのレーシングドライバーで元オペル社員であったエーリヒ・ビッターは、後に自社ブランド「BITTER GMBH」を立ち上げることになる。初代ビッターCDは1973年から1979年にかけて多くの注文が入った。計395台が製造されたが、オイルショックに直撃されてかなりのキャンセルが出たらしい。それを救うために開発されたのが、オペル・セネターをベースにしたこのビッターSCである。

1979年にデビューしたSCは1981年にフランクフルトモーターショーでコンバーチブルが発表されると一躍ポピュラーになった。ビッターがこだわったのは特にインテリアである。この製造を担えるファクトリーをドイツ国内で見つけることができなかった彼は、ジョヴァンニ・ミケロッティの助けを借りてイタリアのトリノで生産することになる。クーペが461台、セダンが5台、そしてコンバーチブルは22台が製造された。日本にはクーペ2台とコンバーチブル2台が輸入され、新車時は約1800万円という価格が付けられていた。そのクーペが先日、The Market by Bonhamsのオークションに出品されたのだ。

編集長もかつて所有していたビッターSC


実は現在『オクタン日本版』編集長である私は、以前このSCコンバーチブルを日本で所有していたことがある。千代田区三番町に『カーセンサー』の編集部があった時代なので、まだ21世紀を迎える前だったかもしれない。編集部近くのマンション1階に、厚いホコリを被ったホロ車の2ドアが長く置きっ放しになっており、昼食を食べに行くたびにそれが気になっていたのだ。スタイルはフロントエンジンのフェラーリ400iに似ているが、見たこともないエンブレムは「BITTER」と読める。まったく偶然であるが、それがある編集メンバーの知人の所有車だとわかり譲ってもらうことになったのだ。

機関系はATが滑るので調布の「オートメディック」にオーバーホールをお願いした。塗装は傷んでいたので葉山の「ゴンチャレンコ」に持ち込み、明るいブルーメタリックに全塗装。ホロも紺色にしてリアウインドウはヨットの帆で用いる硬くなりにくい透明ビニルで張替えた。マセラティのようなシートデザインのインテリアはオフホワイトで、全体的にとてもカッコ良かったのだが、走りはまったく面白くなかった。オペル製3.0リッター直列6気筒エンジンは177hp(132kW)を発揮したが、いわゆる直線番長的な車で、ワインディングでは常に大きなボディをもてあます。そんな車であった。次第に乗る機会が減っていき、逗葉新道料金所を出て最初の信号のそばにあったゴンチャレンコに預かっていただいているうちに朽ち果てていった。前を通るたびに申し訳ない気持ちになるものの、2010年ころに廃棄していただいた記憶がある。世界に22台しか製造されなかった希少な1台を土に返してしまった責任を、今は感じぜすにはいられない。

オークション出品車両をチェック


さて、オークションに出品されていた車両はどんなものなのだろうか。



1982年ビッターSCのオドメーターが示す走行距離計は75,418キロ。シャーシ番号はWO9526219CSB09007である。何年もの間この車は動かされた形跡がなく、書類はあるものの履歴は限定的なようだ。出品者は動態確認をトライしなかったようだが、それは賢明である。ガソリンが残っていれば腐っているだろうし、下手にバッテリーをつないでセルでも回ろうものなら、すべてがお釈迦になる可能性があるからだ。機関系の保証はもちろん無し。いわゆる現状販売とされている。





ボディの腐食も相当のようだ。ボディワーク全体には大きなヘコミはないと記されているものの、塗装の浮き、剥がれ、場合によっては錆の穴があるようだ。ライトやレンズも年式相応のダメージ。ラバー類はほぼ「消滅」という言葉で表現されている。しかもリアバンパーはなく、ホイールも純正は3本だけで1本にブランド不明が装着されているらしい。







逆にインテリアは相対的にかなり良好な状態に保たれているようだ。フロントシート表皮にはいくつか裂け目があるようだが、明るいブラウンのシートやトリムはかなりきれいなようだ。やはりこれは屋根付き車両の優位なところ。カーペットマット、そして後部座席は「リーズナブル」とされている。ただしスイッチ、ノブ、レバー、トグル、ボタン、ダイヤル、またはその他の電気機器の機能については未チェックと念押しされている。EU内の一時輸出でオークションに掛けられているので、落札された場合はオランダの税金がさらに9%ほど掛かるらしい。





私が廃車にしてしまったSCコンバーチブルとこのSCクーペ、どちらが程度が良かったのだろう。

「あのとき買っておけば良かった、手放さなければ良かった」という言葉は、車好きには禁句である。2505ユーロ(約35万円)で落札されたこのSCが過ごすであろう、幸せな新しい生活を願うばかりである。

堀江史朗(オクタン日本版編集長)

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