ディーノを「日常の足」にできる!? 1200万円以上かけたレストアの成果はいかに

Octane UK



いつもの手順を経て、活発なV6エンジンは高いスネアドラムのような音とともに目覚めた。まったくの新品のギアボックスゆえに、最初は引っ掛かりがあるようで若干扱い難く感じたが、すぐに滑らかに動くようになった。速度が増すにつれてステアリングは申し分のない手応えと重さを示すが、コーナーではさらに抜群だ。小さなステアリングホイールをほんのひと押しするだけで、ディーノは鋭すぎると感じるほど痛快に向きを変えるのである。とはいえ、ハンドリングに頼りなさはまったく感じられない。おそらくこれがもっともフェラーリらしくない、ディーノの特徴と言えるかもしれない。

ドライバー自身もエンジンもギアボックスもすべてホイールベースの内側に位置しており、シャシーのバランスは非常に優秀で、スタビリティを失うほどの猛烈なパワーを持ち合わせないこともあり、まさに人馬一体の感覚だ。恐ろしいのではなく、操縦するのが楽しい。これぞディーノが誕生した理由である。かつてはトラックデイなど事実上存在しなかったし、ディーノのレーシングヒストリーもほとんど見つからないだろう。この車は純粋なロードカーとして生まれたからである。



ディーノはまことに理想的なロードカーである。即応するレスポンスは、ドライビングポジションとも相まって、まるでカートを操縦しているように感じられる。しかも落ち着かない、冷や汗をかくような挙動や、肉体的な苦痛とは無縁である。ノイズもショックも、匂いもドラマもないスポーツプロトタイプと言えるかもしれない。ディーノはあなたが想像するよりもずっと紳士的であり、それゆえに現代のメガシティでの素晴らしい足となりうるのである。

もちろん、クラシックカーを所有することについての真実は他にもある。私たちは皆いつまでも、手に入れるべきだった、あるいは手に入れることができたはずだったモデルについて延々と話すことができる。それが不毛であるうえに間違っており、マゾヒスティックなトレーニングにすぎないことを知っているのに、それでも我々はやめられない。

私にとっての第一例は、レストア(しかもマセラティによって)されたばかりのセブリングを、当時の英国法人のボス、リチャード・マッケイから1万5000ポンドで買わないかと突然話を持ち掛けられた時のことだ。もし私がそれを買えたとしても、良い状態のまま維持する余裕がなかったというのが正直なところで、少なくとも車のためには良かったと思う。第二はレンハム・スポーツカーが売りに出していたディーノ246GTである。2000年代初めに訪れた際のことで、最高の状態とは言えなかったために2万7000ポンドに値下げされていた。私はディーノ・オーナーとなる崖っぷちに、運命の分かれ道に立っていた。結局、怖気づいてしまって踏み出せなかったのだが、それからずっとそのことを後悔している。

それゆえに、ルイス・ガーグールのように、夢をかなえようとしている人々を応援したいと思っている。無論ガーグールのように資金があればずっと容易になるだろうが、たとえどのような立場にあろうと、望みを叶えるべきだ。それも今すぐに、である。なぜなら私たちに残された時間があとどのぐらいなのか、まったく分からないからだ。


編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA
Words:James Elliott Photography:Paul Harmer, Louis Gargour, Autofficina

オクタン日本版編集部

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