放置されたディーノを購入してレストア!誰もが気になるその費用は、果たしていかほど?

Paul Harmer

打ち捨てられたディーノを購入してレストアし、毎日使えるようにするには金持ちにならなければいけないのか? これからお話しするように、結局のところその通り。だが同時に私たちは多くのことを学ぶはずである。



クラシックカーの世界にはいくつもの普遍的な真理がある。それはあなたがどのような人物であるかにはかかわりがない。そのひとつは、仮にあなたが裏小屋の中にオースティンA35を納めていようと、あるいは250GTOを最高の状態に保つ10人のチームを抱えていようと、クラシックカーに対する愛情と熱意はまったく変わりがないということだ。

この世界の不都合な真実


もうひとつ、金銭的な苦労も、所有する車や手段にかかわらず、相対的に見ればほとんど同じである。私たちは皆、ちょっと(あるいはだいぶ)手の届かないものを求めているのである。その種の問題とはまったく無縁で、あるいは怪しいパートナーからの金を密かに溜め込むことなしに、易々と維持している人に出会ったことがあるだろうか?私は覚えがない。もしそうならば、その誰かは単に必要な車を所有していないだけである。

問題は私たちが車の価値と値段について話すことを避けようとすることだ。というのもそれは無礼なことであり、また聞いていてあまり愉快ではないことが多いからだ。これは我々の世界の不都合な真実である。しかし時には向き合わなければいけないこともある。それこそがこの記事の狙いである。

このストーリーのきっかけは、2014年5月のシルバーストン・グディング・オークションだった。"ヴェルディ・ピーノ"(グリーン)の1973年式ディーノが、記録も定かではなく、オークションのカタログにも"腐った洋梨のよう"と記載されていたにもかかわらず、13万ポンド(訳註:1ポンド150円で1950万円)という驚異的な値段で落札されたのである。当時、我々の寄稿者(著者は元クラシック&スポーツカー誌の編集長)のひとりだったサイモン・パウエルがいみじくも「馬鹿げたことに、近頃では錆は風合いと見なされているようだ」とコメントしているが、私もこの言葉が的を射ているように思う。

この記事のきっかけは6年前のシルバーストーンのオークションで落札されたディーノ。"腐った洋梨"とカタログで評されたほどの状態だったが、それでも13万ポンドもの値が付いた。

ブームの中だったとはいえ、この酸化鉄の塊が最後には何かしら価値のある実際の車とに生まれ変わるとは信じられなかった。確かにジャガーEタイプとともにディーノは加熱するクラシックカー・マーケットのいわばバロメーターであり、私もずっと前から大好きなモデルだったこともあって、私はリアルな実例を見つけようと心に決めた。レストア済みのディーノをそのまま買うのではなく、DIYする場合のすべての数字を明らかにしたいと考えたのである。ただし、そのアイディアは人々をためらわせ、用心深くさせるものだった。それゆえにルイス・ガーグールに出合うまで、棚上げにせざるを得なかった。

彼は社交的で、いわゆる国際人である。若い頃からワシントンDCでカマロやマスタングなどを修理して売り買いしていたという。その後ニューヨークに移り、続いてスイスに居を移し、今では主にロンドンで暮らすようになった。1994年にポルシェ930ターボを購入したことが彼の心に火をつけ、その後は360スパイダーや996GT3RSといった車が増えていったという。

「私は車をすぐに売買するのではなく、ずっと手元に置きたいタイプなんだ。一時は9台もあった。2台用のガレージがウェスト・ロンドンにあるけれど、ロンドン中心部にそれらを保管していることが、まあ悩みの種だ。自分自身でレストアしたばかりの1973年911タルガに、左ハンドルの中東向けモデルを扱っている店から買ったフェラーリF12もある。360スパイダーはもう駐車スペースがないために泣く泣く売ってしまったのだが、他にもEXE-TC社製サスペンションと650psエンジンを備えたノーブルM12と430チャレンジ、そしてフォーミュラ3ルノー…」そう、彼は資産運用会社を経営する起業家なのである。ガーグールがこのディーノと出会ったのは偶然だった。

「2018年のグッドウッド・フェスティバルに友人二人と出かけた。連中はドラマシリーズの『ザ・ブリッジ』に使われていた911SCが出品される予定のボナムス・オークション目当てで、何とか手に入れたいと息巻いていた。そのポルシェには凄い値段が付いたが、彼らが入札しているいっぽうで私はこのディーノを見つけたんだ。クリーンで錆もなく、しかも改造されていないスタンダード仕様で、レストアに打って付けではないかと思った」

皆が北欧ノワール・ドラマの主役級のポルシェ911に注目していた傍らで、ガーグールがボナムス・オークションで見つけた際のディーノ。

「この車は何十年もガレージにしまわれたままだったという。ロンドン在住のイタリア人紳士が所有していたが、彼が亡くなった後、ミッドランズのアパートメントの販売書類が大量に見つかったらしい。派手な生活をしていたわけではなかったので、彼が多数のアパートメントを所有していたことを誰も知らなかった。そのうちのひとつのフラットには貸しガレージが付属しており、このディーノはその中に35年間もしまい込まれたままだったんだ」

ガーグールは即座にあるアイディアを思いついた。ディーノは現代の基準からしてもコンパクトで軽快敏捷であり、ULEZ規制(ウルトラローエミッションゾーン=低公害車以外をロンドン中心部に乗り入れさせない規制)も免除される。これならばロンドン市内の日常的な足として理想的ではないか。

「当たりくじを引いたようなものだろうか。都会で"本物の車"に乗るのはもうほとんど不可能だが、これならばいつでも使えるし駐車するのも簡単だ」

その時のオークションは大商いだった。アルファ・ティーポBが450万ポンド、BMW507には400万ポンド近い値が付き、皆の度肝を抜いていた。そこにロットナンバー334の1972年ディーノ246GTが登場した。"一部の外装を除けば機械部分のコンディションは良好"という1973年ディーノが20万ポンドだったから、オリジナルのイエローから塗り直された、エンジンも換装されていたとはいえ、14万1500ポンドの値段は妥当に見えた。

オクタン日本版編集部

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