レーシングモデルにインスパイアされて誕生したGT8 ヴァンテージのパフォーマンスは?

Photography:Andy Morgan


 
車全体のバランスが、とにかく素晴らしい。慣れて自信がついてくると、そのバランスのよさを信頼してコーナーに飛び込むスピードが徐々に上がり、スロットルペダルをより早めに、より力強く踏み込めるようになっていく。走行モードをトラックにしている段階から、徐々にグリップを手放して僅かなスライドを楽しませ、自然に収束していくという痺れるような動きを見せてくれるGT8であるが、電子制御をカットしてみると、その奥にはウデに覚えにあるドライバーにとってのさらなるお楽しみが待っている。

ブレーキングで長いノーズを沈めて僅かにステアリングできっかけを与えると、GT8は穏やかに感じられるほど解りやすくテールを振り出して弧を描きはじめ、そこから先はステアリングでもスロットルでも、おもしろいほど従順にコントロールすることを許してくれる。4本のタイヤの状況の変化が見事に掴みやすく、ステアリングやペダルを通じた車との意思の疎通が驚くほど図りやすく、ボディとシャシーの包容力が素晴らしく高いおかげで、それほど難儀することなく後輪の動きをコントロールしていくことができるのだ。その一連の挙動はコーナーの入り口から出口まで滑らかに繋がっていき、ドライバーに横Gの甘美な抱擁を永遠に感じられるほど豊かに与え続けてくれる。この車以上に速い車は確かに何台も存在するが、この車以上にコーナリングを濃密に楽しめる車というのは、なかなか思いつかない。


GT8は、とりわけ運動性能に関してヴァンテージ史上最高のモデルといって全く差し障りはないし、ドライバーズカーとして問答無用の成功作といっていい。GT12の強烈なパワーや全方位的に刺激的なフィールを持つエンジンとこの優れた絶妙なハンドリングが組み合わせられたら夢のようだが、それはまさしく夢以外のなにものでもない。GT12とGT8のどちらがより素晴らしいヴァンテージなのか選択を迫られる場面もなきにしもあらずかも知れないが、その結論を簡単に下すことはとてもできそうにない。 

GT8はかつてのDB4 GTと違って、レーシングカーの直系とはいえないかもしれない。残念ながら、様々なレギュレーションでがんじがらめになっている現代のGTカーで、それは不可能だ。だが、プロダクションカーをベースにしながらレーシングカーとしての風味を精巧に再現したこの車でなら、最高にエキサイティングな"コーナーハンティング" を楽しむことができるはずだ。

ただ、そそられている人には気の毒なお話だが、150台のGT8は納車すら始まらないうちにすべて売約済みとなってしまった。アメリカでの販売なしでその状況なのだから、いかにこの"スペシャル" の人気が高かったか、簡単に理解できるというものだ。
 
だが、"スペシャル" ヴァンテージが魅力たっぷりであることは充分承知してはいるものの、一方で別の考え方があることもお伝えしておくべきだろう。あなたがもしサーキットやワインディングロードを攻略するよりも、もっと日常的な場面でヴァンテージを楽しみたいのであれば、スピードの世界に深く足を踏み入れている"スペシャル" よりもプロダクションモデルを選ぶべきかも知れない、ということを。刺激の強さはあくまでも比較問題であり、標準的なヴァンテージにも充分といえるくらい備わっているし、どうしても目立ってしまう空力パーツの扱いに必要以上に神経質になることもない。オールマイティな高性能GTカーとしても、気の向いたときにいつでも乗って出られるスポーツカーとしても、全体的なバランスを考えれば、はるかに優れているのも確かだ。
 
いずれにせよ、2005年のデビューから12年。熟成が素晴らしい具合に進んできたこのコンパクトでシンプルに美しいヴァンテージを新車として手に入れることのできる時間は、おそらくそれほど長く残されているわけじゃないと思うのだ。

編集翻訳:嶋田智之 Transcreation:Tomoyuki SHIMADA 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Richard Meaden 

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