憧れのヒロインを所有する│虜にされた車と久しぶりの再会

Photography:Matthew Howell

18カ月にわたるフルレストアを経た、アストンマーティン・ヴァンテージ。オーナーをアストンマーティンの虜にさせた車との久しぶりの再会に立ち会ってきた。

読者の皆さんは、アストンマーティンに"目覚めた"頃を覚えていらっしゃるだろうか? 60年代生まれの筆者は、映画「007シリーズ」のゴールドフィンガーに登場したDB5の玩具で遊び、父親が読んでいた自動車雑誌に登場していたDB6にくぎ付けだった。当時住んでいたイギリス・ノーザンプトンは田舎ゆえに、アストンマーティンの実車を見かけることはなかった…、少なくとも1973年、私が12歳になるまでは。当時の現行モデルはAM V8で、それこそ子供向け戦隊モノ番組に登場する、ヒーローが乗るようなマシンにさえ感じられた。

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アストンマーティンの実車を見かける機会がおとずれたのは、
地元の広告代理店が撮影用に借り出してくれたおかげだった。地元の友人、リチャードの父親がその広告代理店に勤務していたからで、週末には、AM V8はリチャードの家に停まっていた。その時点でリチャードは、単なる友人でなく親友となったのは言うまでもあるまい。

「アストンマーティンに乗ってみる?」との誘いに二つ返事で
出向いた。フロントシートにはリチャードの父親と上司、そして後ろの席に筆者とリチャードが陣取った。家からほど近い広い国道へ出向き、交通量が少ないところでアクセレーターペダルを踏み込んだ。運転中にリチャードの父親が「こりゃ凄い!」と叫んでいたことが今でも忘れられない。

今まで味わったことのない加速感もさることながら、エンジンの吸排気音が最も筆者の印象に残っている。感激して声高に喜んでいたと記したいところだが、実は呆気に取られて無言になっていた。思い起こせば、車に乗り込む前からAM V8にはヤラれていた。なにせ実家の車はヒルマン・ミンクスで、AMV8の大きなタイヤ、幅広いボディ、左右両側から顔をのぞかせるエグゾーストパイプ、どれをとっても異次元のモノに感じられた。DB6くらいまでは、1950年代のアストンマーティン車両の進化版であることが明白であったがAM V8は突如、フェラーリ・デイトナ、イソ・グリフォといったGTカーと互角なステージに並んだと12歳の筆者は思ったし、まさにアストンマーティンへの目覚めであった。


 
今回、車両を提供してくれたスコットランド人、エリック・
クラークもアストンマーティンへの目覚めをはっきりと覚えている一人だ。1977年、V8ヴァンテージのプロトタイプを初めて見たときに目覚め、今なおその情熱は薄れていない。筆者とエリックの違いは、彼は10年前に"目覚めさせてくれた"車を手に入れていることだ。なお、今回取材したV8EFiは1988年式シリーズ5の電子制御式燃料噴射装置付き(ウェバー・マレッリ製)のもので、約60台生産されたうちの一台。少し前に採用されていたボッシュ製の電子制御式燃料噴射装置よりも安定していて、モデル末期とあってあらゆる面で熟成された感があるものだ。
 
購入してから約8年間乗り回し、やや車にくたびれた感が漂
いはじめ、オドメーターが13万マイルを超えた頃、彼はフルレストアのためにアストンエンジニアリング(ダービーにあるアストンマーティンを得意とする整備工場)へAM V8を入庫させた。約18カ月の作業が終わり、生まれ変わったAM V8を筆者はエリックと共に引き取りに行くことになった。しかもフルレストアされたばかりの車両を撮影させてもらったばかりか、試乗までさせてもらった。

編集翻訳:古賀貴司(自動車王国) Transcreation:Takashi KOGA(carkingdom) Words:Peter Tomalin 

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