ル・マン参戦のために設計されたアストンマーティンが公道用に仕立て直される?

Photography:Gus Gregory



S430型と呼ばれるギアボックスの短いシフトレバーは理想的な位置にあり、操作は軽く、正確である。4速のうち、かなりギア比の高い1速にはシンクロが備わっていないため、アルプスのきつい上りのヘアピンでペースを維持するにはダブルクラッチが必要である。2〜3速のギア比は、2.9リッターのエンジントルクを最大限に発揮するために、かなり接近したものとなっている。レース仕様と同じクラッチは例によって重いが、ストロークは短く、つながりもスムーズで、素早い変速が可能である。トルクは4500rpmで222lb-ftのピークに達するが、3500rpmから5000rpmまでずっと210lb-ftを超える値を発揮する。

タイヤとサスペンションがレース仕様であるにもかかわらず、乗り心地は驚くほどソフトだが、かといってロードホールディングは少しも犠牲になっていない。私は数年前、幸運にもシャシーナンバー"110"のDB3Sでレースに出場したことがあったが、それを思い出した。コーナーへのターンインは正確であり、またどんなにうねった路面でもハイ・ギアのステアリングからのフィードバックは素晴らしい。ダンロップのタイヤは、トレッドが比較的狭いせいもあって、キャンバーを維持しようとする傾向がある。

グリップレベルは高く、上り下りが連続するワ
インディングロードでパワーをかけながらコーナーを走り抜けても、ボディのロールはほとんど発生しない。やがてスプリントコースとしておあつらえ向きな11マイルほどの区間へとやって来た。ここは、曲がりくねった山道と60~70mphで走ることが可能な高速コーナー、その間の短い直線からなっており、211bhpのエンジンパワーをフルに発揮させることが可能である。2速と3速では非常にパンチの効いた加速が得られ、コーナーではエレガントなドリフトを実現できる。また、控えめに進行するオーバーステアも、反応の良いステアリングによって瞬時に修正が可能である。



実際、路面状況が目まぐるしく変化するアルプス山中でも、リアのドディオン・アクスルによってもたらされるロードホールディングとハンドリングの素晴らしいバランスの恩恵に預かることができる。巨大なアルフィン・ドラムブレーキ(後期のDB3Sの市販仕様ではディスクブレーキが採用された)は、踏み始めはちょっと効きが悪く、高速ではペダルをかなり強く踏み込まなければならないが、新しいパッドが充分に馴染めばそれも改善され、ドラムブレーキであることを頭に入れさえしておけば、役割を充分果たしてくれる。

このDB3Sクーペは、走る距離はともかくとして、毎日のドライブを楽しいものにしてくれるはずである。その使いやすさ、快適さ、優れた走行性能など、すべてが従順に仕上がっている。すべてのアストンマーティンの中でも間違いなく希少な存在であり、そして外から眺めるだけでなく、運転する意欲をそそってくれる一台でもあるのだ。

編集翻訳:工藤 勉 Transcreation:Tsutomu KUDOH Words:Paul Chudecki 

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