「世界最高」と認められたポルシェ356の物語

Photography: Delwyn Mallet Archive pictures: Porsche AG

ポルシェ356は、多くの点で時代のはるか先を歩んでいた。分割式フロントウィンドウを持つ初代モデルは、登場と同時に大人気を博した。現存する中で世界最高と認められている1台を紹介する。

自動車メーカーのポルシェにとって、戦後間もない数年間は、フォルクスワーゲンの成功と切っても切れない関係にあったといえるだろう。もしVWビートルが生産されていなかったら、ポルシェはせいぜい自動車全般の設計コンサルタント止まりに過ぎず、偉大なスポーツカーやレーシングカーも生まれず、有名にもならなかったはずだ。

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戦後のVWビートルの生産は、1945年にヴォルフスブルクでイギリス軍の主導によって再開した。それはビジネスではなく、切実だった車不足の解消と、ドイツの労働者に仕事を提供することで、敗北感と自信喪失から立ち直らせようという意味合いであった。だが、非凡な情熱と野心を抱くハインツ・ノルトホフが社長の座に就き、彼が強力に指揮し始めると、1948年ころにはビートルの素晴らしさが世界中の消費者の心を掴んでいった。

いっぽうポルシェ社では、長く戦争協力者としてフランスに幽閉されていたことでフェルディナンドの健康状態が悪化、息子のフェリー・ポルシェが実質的に会社のトップに立っていた。フェリーは、ビートルを設計した父へのロイヤリティとして1台あたり5マルクを支払うという戦前の合意を実行するようノルトホフと交渉。加えて、コンサルタント業務の継続と、オーストリアへのVW輸入をポルシェKGが独占的に取り仕切る契約を結んだ。さらにポルシェがVWをベースとしたスポーツカーを製作できるよう、パーツの供給を受ける合意も取り付けた。創業当時の困難な時代、
増え続けるVWの生産がもたらす資金は、ポルシェにとって必要不可欠のものだった。

フェルディナンド・ポルシェとフェリーは、VWの開発当初から基本コンポーネンツを流用して車を造ることを考えており、ポルシェの名を冠したスポーツカーもそのひとつだった。しかし戦前には、国が後援する事業から私企業の利益になるような部品提供を受けることが政治的に難しく、それが壁になっていた。

ところが1938年にベルリン・ローマ間レースの開催が発表された。ドイツとイタリアという二つの枢軸国の絆を示すというプロパガンダではあったが、ポルシェにとっては、これこそVWベースのホットなスポーツカーを造る絶好の機会となった。結局、戦争が近づいたためにレースは開催されなかったが、美しい流線型のKdF(VW)レコルトワーゲンが3台完成した。これこそ356のルーツだ。



戦争末期、ポルシェの設計部門はポルシェ家に近いオーストリアのグミュント村に疎開した。そこで、1948年から1951年までの間、製材所を改修した建物を使い、手作りで約50台のクーペやカブリオレを造り上げた。356のコードネームで設計されたこの車では、シャシーをVWビートルから流用するのではなく、スチールパネルを曲げて造ったシンプルなボックスセクション・プラットフォームを採用した。

ギアボックスやデファレンシャルなどの駆動系、
サスペンション、ホイール、ブレーキ、ステアリングはすべて純VW製だったが、ポルシェはエンジンに手を入れた。シリンダーヘッドを再設計し、個々のシリンダー上部に備えたソレックス製キャブレターをツインポートマニホールドとした。

スポーツカーメーカーになるというポルシェの野望を果たすためには、それに適した施設が必要になるのは明らかだったが、一番実現する見込みがあったのは、シュトゥットガルト郊外のツッフェンハウゼンにある元の敷地に戻ることだった。資金が充分でなかったポルシェは、ロイターコーチワーク(現:レカロ)と最初の500台のスチール製ボディを供給するという提携を結んだ。フェリーは、500台あれば世界市場で数年間はもつと考えていたのだ。だが、これは彼の数少ない間違いだった。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words & Photography: Delwyn Mallet Archive pictures: Porsche AG

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