90年前に誕生したブルーのメルセデス・ベンツが歩んできた道

Octane UK



1933年、ハウは36/220を自動車関連のビジネスマン、ハンス・エドワード・"ジャック"・ロールに売却した。ロールは36/220を1958年まで所有し、この車とアルファ・ロメオ8C2300で熱心にレースやラリーに参戦した。ロールが所有する間に、あの美しいボートテールは切り落とされて丸い形状に変わり、さらにスペアタイヤを収める円形のハッチが取り付けられ、カラーもえんじ色に塗りかえられた。1952年に世界で初となるファクトリー公認のメルセデス・ベンツ・クラブがイギリスで設立されると(ハウ伯爵は設立時からの後援者だった)、ロールは最初の財務担当となり、その後もさまざまな役職を歴任した。



また、シュトゥットガルトにあるメルセデス・ベンツの本拠地
に巡礼するクラブイベントを毎年主催し、旅の最後にシュトゥットガルトの楽団で指揮をするのが恒例となっていた。

ロールは2000ポンドをかけて36/220をレストアしたが、その後ついに手放すことに決めた。広告に掲載した売却価格は975ポンドで、これは当時のヴィンテージカー相場を大幅に上回るものだった。購入したのは、大西洋の向こう側のワシントンDCに住む裕福な材木商、ジョージ・ウェズレー・ヒューグリーJr. だった。ヒューグリーは、父親が死去した1937年に170万ドルに上る土地と家業を相続していた。

その会社は
1912年設立で、郊外へと拡大を続ける首都ワシントンの住宅ブームで大いに潤っていた。ヒューグリーは少なくとも1965年までクラシックカー・クラブ・オブ・アメリカ(SCCA)の会員で、その2年前に36/220をエドガー・ジュリストに売却した。ジュリストはニューヨーク州ナイアックでヴィンテージカーを販売しており、店は、以前パッカードのショールームだった1930 年代のエレガントな建物に入っていた。

ジュリストは
180cmを超える巨漢で、第二次世界大戦中はドイツの捕虜収容所から何度も脱走を試みたという豪胆な人物だった。また、クラシック飛行機のエアショーで有名な南部連邦空軍の"大佐"でもあった。

ジュリストは36/220をトニー・ハルマンのインディアナポリス・モータースポーツウェイ博物館に売却した。この博物館は、展示フロアの下に広大な地下ガレージを備え、多数のヒストリックカーを収蔵している。このとき36/220はアイボリーホワイトで、テールはさらなる手術を受けて、2本のスペアタイヤをむき出しで積む形に変わっていた。

そして2013年に、カリフォルニア州ウェストレイクビレッジにあるブールバード・モーターカンパニーのチャールズ・ブロンソンが、現オーナーのブルース・マカウの代理人として、この車を入手した。

36/220を"ハウ伯爵仕様" に戻そうと決意したブルースは、その仕事をスティーヴ・バビンスキーに託した。バビンスキーが営むニュージャージー州レバノンのオートモティブ・レストレーションズは、1981年に前雇用主から備品一式を買い取って興した会社だ。会社ごと買い取らなかったのは、余分な借金を避けるためだった。「戦前の車であれば、あらゆる車を喜んで引き受けますよ」とバビンスキーは話す。

その日の営業を終え
たあとも、夜11時まで作業を続けることが多いという。それほど古い車が好きなのだ。

36/220の前半部分は、ペイントの下にほぼオリジナルのままで残っていた。しかし、失われたボートテールの復元には最新技術を必要とした。ブルースはこう説明する。「チャールズ・ブロンソンが当時の写真を探し出したので、その写真をスキャンして、コンピューターでテールの3Dイメージを作成した。できる限り完璧に再現することを目指した」

バビンスキーのチームがレストアを完了したのは、ペブルビーチのわずか1週間前だった。テスト走行は3マイルのみだったが、ツール・デレガンスでは70マイルを無事に走破。続くコンクール・デレガンスでは、ブルースの弟ジョンが出品した1957年フェラーリ315 Sスカリエッティ・スパイダーを抑えて、最高の栄誉を勝ち取った。36/220はグランツーリスモ・トロフィーも受賞している。

ブルースは、この車を最初に注文したハウ伯爵こそが真の勝者だと語る。「彼はモータースポーツに情熱を傾けた。この車の栄誉はハウ伯爵のものだよ」

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.)  Transcreation: Kazuhiko ITO( Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: David Burgess-Wise 

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事