ここは博物館?と思いきや、なんと駐車場! おしゃれすぎるドイツの新感覚・車両保管施設

見せるカーストレージ(Photography:Martyn Goddard)

ドイツにあるクラシック・リマイズの機能は多岐にわたる。モーターショーが開かれることもあれば、カークラブの要素もあり、プライベートな貸し車庫であったりもする。さらにはショッピングモールもあり、誰もが楽しめる複合施設なのである。

1927年にパリの東にバンヴィル・ガレージという、ちょっと高価だが車好きには理想的な駐車場があった。それは駐車施設としては初の高層建造物で、安全管理はもちろんのこと、車を1台1台個別のカーゴに乗せてディスプレイするという、これまでにない概念の「見せる駐車場」だった。施設内には車両整備場、レストラン、屋上には芝生を敷き詰めたテニスコートまであり、いわゆる多機能駐車場の先駆けでもあった。

90年も昔にこういう施設が存在したこと自体驚きだが、現代のドイツでもこのコンセプトは生き続けている。2000年代の初めにベルリン、デュッセルドルフ、シュトゥットガルトに続々と新感覚の車両保管施設がオープン、新たな事業形態を創出したからだ。形態上は単なる駐車施設だが、整備業者、ミュージアム、お祭り市場といったエンターテインメント要素を内包しており、自動車を中心とした新たな複合施設として世に問いかけている。

容れ物はバウハウス時代のモダニズム建築
まず、注目すべきはその建物だ。かつて蒸気機関車を格納していた円形の機関庫を再生利用したものである。デュッセルドルフにある機関庫は第一次大戦前のドイツでモダニズム建築を展開したバウハウス全盛の頃のもので、その後は製鉄会社が利用していたが戦禍を受けて廃業、以後手つかずのままだった。2005年に大改装を受け、オリジナルの基本構造や、木製の蒸気収集箱、風合いのあるエナメルの標識などを残しつつ見事再生された。クラシック・リマイズ(イギリスの古い言い方ではコーチハウス)は、その建造物を使って2006年に開業、いまや30以上のテナントが店を構えている。その3分の1は車の整備会社で、モーガン、ポルシェ、シトロエン、ドゥカティのスペシャリストである。有名なクラシックカー・ディーラーのモヴェンディは本拠地をここに置いているし、フォルクスワーゲンのマイクロバスを扱う専門店も入っている。

垂涎のガラス箱
ほかにも、グランプリ関係のオリジナル用品店や、保険業者、クラシックカーのリース業者などさまざまだが、自動車に関する業種であることに変わりはない。車の絵に長けたアーティストまでいる。円形状の建物の中心はビストロ・ヘブミューラーで、打ち合わせや会議ができるコーナーもあれば、外には豊かな自然の中で楽しむビアガーデンも用意されている。常駐しているわけではないが、週1本のペースで自動車番組を配信しているドイツのTV局のスタジオもテナントに名を連ねている。

自動車を核とした商売と周辺エンターテインメントを都市の中心部にひとつにまとめて提供するという試みは、ここだけのものだろうか。たとえばイギリスにはビスター・ヘリテージ・モーターパークがある。オックスフォードシャーにある古い鉄道の駅を改装したもので、成り立ち的にはクラシック・リマイズと通じるものがあるが、ビスターのお客さんは1日中そこで過ごさねばならない。それに対してリマイズは便利な場所に位置し、モールがあることもあって、人々は自由気ままにやってこられる。そこが大きな違いだ。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Dale Drinnon Photography:Martyn Goddard 取材協力=クラシック・リマイズ・デュッセルドルフ(www.remise.de)、 マーティン・スミス、フォード・ダゲナム・ヘリティッジ・コレクション

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