このレーシングカーは一般道で実用的だ|ある「ローラT70 Mk.III」オーナーの証言

1967年ローラT70 Mk.III(Photography:Justin Leighton)



交通量の多いA286は対向車が途切れることがないから、普通の車に乗っているなら追い越しするチャンスはほとんどないが、T70ならばセカンドにシフトダウンして右足を深く踏み込むだけで数珠つなぎの車を一瞬で、対向車が近づいてくる前に余裕を持って抜き去ることができる。実にドラマチックで安全だ。T70は一時F1マシンよりラップタイムが速かったほどだ。5速100mphからの加速は内臓がねじれるほどである。それでいながらきわめて柔軟性に富んでいる。それはまったく乗ってみないと信じられないほどだ。実際、ミッドハーストに入るラウンドアバウトで2速ではなく3速にミスシフトしてしまったが、ローラは何事もなかったように加速した。

いつものようにミッドハーストの道は混みあっており、日差しは容赦なくコクピットに射しこんでいた。それでもT70はいささかもオーバーヒートの気配を見せなかった。温度が上がっていたのはむしろ私のほうで、道端に寄せて飲み物を口にした。再びスタートして、交通の流れに合流する際にはいつも以上に注意する必要があった。後方視界がローラT70の長所でないことは明らかである。いや、もっと正直に言おう。空気が入ってくるほど充分に速く走っていない限り、T70のコクピットは息苦しいほど暑く、後方視界についてはほとんど何かのお仕置きのようだ。ドライバーとエンジンの間にはケブラーのパーツしかないので、やかましいことこの上ない。

それゆえ、サセックスを横切るドライブ旅行の最後には、私の耳はほとんど聞こえなくなっていた。そのうえ汗だくで、へとへとになっていた。

「そんなローラT70は実用的なロードカーだろうか?」

私は間違いなくその通り、と断言したい。

1967年ローラT70 Mk.III
エンジン形式:5900ccシボレーV8、ウェバー48IDAキャブレター×4基
NE最高出力:495bhp/4750rpm 最大トルク:475lb-ft(644Nm)/4900rpm
トランスミッション:ヒューランドLG600、5段マニュアル
ステアリング:ラック&ピニオン
サスペンション前/後:ダブルウィッシュボーンコイルスプリング、
テレスコピックダンパー、ラジアスロッド(リアのみ)
ブレーキ:4輪ディスク 車重:860kg 最高速度:175mph(約281km/h)

編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Ivan Ostroff Photography:Justin Leighton

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事