このレーシングカーは一般道で実用的だ|ある「ローラT70 Mk.III」オーナーの証言

1967年ローラT70 Mk.III(Photography:Justin Leighton)



恐ろしくパワフル、そしてフレキシブル
160mphはとても試せないが、実際の路上でのT70はどんなものなのかを自分で確かめてみる番だ。幅広いサイドシルを越えて、尻をシートに落とす。インテリアトリムなどないに等しいが、意外なことに快適で寝そべったドライビングポジションも申し分なかった。コクピットは本物のロールケージが組まれた純粋なレーシングカーそのものだ。パセンジャーシートはあるが、斜めに走るブラケットのためにサーカスの曲芸師でも座るのは難しそうだ。追加された速度計を見つけたが、それはドライバーからできるだけ離されたかのように、パセンジャー側のダッシュの端に備えられていた。

Gフォース製のレース用シートベルトを改めて、ペダル類の位置も確認した。まったく誂えたようにヒール&トー用の配置も完璧である。メインスイッチがオンになっていることを確認し、イグニッションキーを捻り、丸い燃料ポンプスイッチを右に回してボタンを押し、右足を踏み込む。途端に巨大なレース仕様シェビーV8は、耳のすぐ後ろで雷鳴のような轟音を轟かせた。サセックスにしては暑い日だったため、ガルウィングドアのT字型のドアロック機構を回してから、息が詰まらないように小さな三角窓が開くことを確認した。

ヒューランドLG600ギヤボックスはしっかり確実な操作を要求する。1速は左後ろ、クラッチは重いけれども難しくはなく、1500rpmにも達すれば2速、そして3速に入れてもまったく不都合なく応えてくれる。T字路で速度を落とす時にダブルクラッチを踏んで2速に落としてみた。非常に短いストロークは夢のようだ。ブレーキはまだ冷えていて堅く重く、ラウンドアバウトに進入するときにはキーキーと音を立てていた。

ラウンドアバウトでテールをちょっとブレークさせようとした。ただ単に試してみたくなっただけだが、しかしグリップは絶大だった。V8エンジンのノイズはけた外れだが、機嫌よく回っているようだ。サーキットでもT70は寛容なマシンだが、一般道で運転しやすいことに驚愕しないわけにはいかなかった。世の中の連中はパワーだ、パワーバンドだという話をするが、ロードカーの場合はパワーおよびトルクと重量の関係がモノを言う。ローラはすべてを兼ね備えている。

エンジンはまったくデチューンされていないというが、非常に扱いやすい。1200rpmも回っていればどのギヤでもまるでタービンのようにするすると加速するし、2000rpmに達すれば1速から4速までのどのギヤに入っていてもパチンコのように加速する。そしてタコメーターの針が4000rpm近くまで上がれば、サイドウィンドウ越しの風景は文字通りぼやけ始め、まるで自分が明日に向かっているタイムマシーンに乗っているように感じるだろう。

エンジンは耐久性を考えて7500pmにリミットを設定してあるというが、路上ではまったく必要がないことは言うまでもない。怪物のようなパワーを持つが、有り余るほどのグリップも同時に備えているので、ラウンドアバウトの出口でテールをちょっと振り出すことも問題なくできる。サーキットではわずかなロールを感じるものの、一般道ではまるでそのレベルには達しない。

編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Ivan Ostroff Photography:Justin Leighton

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