ジャガー創立者 ウィリアム・ライオンズ卿のために生産された「ジャガー Mk.X」

1961年ジャガー Mk.X(Photography:Amy Shore)



フォーマルサルーンの系譜
通常、車というものはマーケティングの結果を反映させたフェイスリフトを行うほどに純粋さが汚されるもので、オリジナルデザインこそが最良だと断言してもいいだろう。Mk.Xは、1964年に4.2リッター・エンジンを与えられ、次いで1966年にはラジエターグリルの中央に太いバーが加えられるなどして420Gと呼称変更されるまでは、外観的には大きな変化はなかった。420Gではボディ側面のサイドモールの先端にフロントサイドマーカーが追加され、このモールを境として420Gから設定されたデュオトーンを選ぶことも可能になったが、これではサイドビューを分断することになり、あまり頂けないと私は思う。この変更で純粋さは失われた。より若く見える代わりに、今振り返って見るなら巨大なMk.Xは妙に歳をとったように見える。

Mk.Xは1970年に生産を終了したが、遺伝子は完全に消えたわけではなかった。Mk.Xのフロアパンは、1968年にディムラーのバッジを冠して登場した正統リムジン、DS420に延長されたうえで引き継がれた。ディムラーは、世界最初の御料車メーカーであり、第二次大戦後に新興のロールス・ロイスにそのポジションを譲るまでは唯一の御料車メーカーであった。ジャガーは、現存する英国最古の自動車会社であるディムラーを1960年に吸収したが、そのあとも自社のトップレンジとしてモデル名を継続していた。

背が高く、荘厳で、官界や公式の場、上流階級にとって不可欠の正統リムジンであるなら、モデル名はディムラーを置いて他にない。1992年まで手作りで生産が続けられたディムラーDS420は、英国伝統のフォーマルリムジンの様式を踏襲しながら、一目でMk.X/420Gの血統だと判る、控えめなリアホイールアーチの意匠を引き継いでいた。エリザベス女王の母君、エリザベス皇太后は、戦後、にわかに王室に入り込んだロールス・ロイスをよしとせず、公式な御料車がロールス・ロイスに変わったあとも、ご自分の専用車として2002年に崩御されるまで伝統的なロイヤルカラーであるブラック/クラレットのデュオトーンに塗られたDS420を使い続けた。

私は何年ものあいだ、自分がMk.Xをドライブする夢を育み続けて来ていた。今日、夢は現実になった。Mk.Xはやはり素晴らしい車であったが、実際には、その多くがEタイプなど、他の車のための部品取りとして解体されため、今やとても希少な車になってしまった。取材を終えたあと、私は最後にこの豪華なドライビングシートにもう一度ゆっくり座り、持参した最初のコーギー製ミニカーを、鏡のように磨き上げられたウオールナットのダッシュボードの上に置いてみた。このミニカーのメタリックブルーが暗すぎることは判っている。遊び過ぎて付いた無数のキズを隠すために自分で塗り直したのだ。それでも"ジュエル・ヘッドライト"の輝きはまったく衰えていなかった。

取材協力:ナイトフランクLLP(www.knightfrank.com)で販売中のワッペンベリーホールの不動産会社
編集部註:7868RWは2017年3月4日ブルックランズサーキットでのヒストリックス(www.historics.co.uk)のオークションに出展された。結果はボートイン(親引け)だった。


自動車会社のオーナーであれば、その会社のトップレンジを普段の足として使おうと思うものだ。この、ジャガーにとっては歴史的な屋敷は現在350万ポンドで売りに出されている。


1961年ジャガー Mk.X
エンジン:3781cc、DOHC、直列6気筒、SU製SHDキャブレター×3基
最高出力:265bhp/5500rpm 最大トルク:260lb-ft/4000rpm
変速機:前進3段ボルグワーナー製DG型AT、後輪駆動
ステアリング:ウォーム&セクター、パワーアシスト付き
サスペンション(前):ダブルウイッシュボーン、コイルスプリング、
テレスコピックダンパー、アンチロールバー
サスペンション(後):ドライブシャフトをアッパーリンクとする
ダブルウイッシュボーン、
トレーリングアーム、4本のコイル・ダンパー・ユニット
ブレーキ:ディスク、サーボ付き 重量:1789kg
性能・最高速度:120mph(約163km/h)、0-60mph:11.4秒

編集翻訳:小石原耕作 Transcreation:Kosaku KOISHIHARA Words:John Simister Photography:Amy Shore

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