ジャガー創立者 ウィリアム・ライオンズ卿のために生産された「ジャガー Mk.X」

1961年ジャガー Mk.X(Photography:Amy Shore)



かつてのオーナーになりきって
そして本日、始めてそれを欲して(ミニカーだが)から55年後、私は、すべてのジャガーの中で最もプレステージアスで美しいMK.Xをドライブしようとしている。この特別なドライブは、この車が何度もそうしたようにワッペンベリーホールの玄関の前庭からスタートしようと考えた。ここで自分がウィリアム卿であると思うことにしたが、それは見事に失敗した。彼ほど背が高くないし、自分が育てた魅力的な自動車会社を所有しているわけでもない。なにより、隣のシートにレディ・ライオンズが居ないではないか。

通常はショーファー氏、そしてウィリアム卿もときおりは開けたであろうドアからドライバーズシートに着座する。ドアは分厚く、贅沢な曲線をもつアウタースキンとフラットなインナーパネルの間の大きさが強調される。Rhdのステアリングホイールは若干左にオフセットし、その奥にはボルグワーナー製DGオートマチックトランスミッションを操作する、ウィンカーレバーほどの細身で上品なセレクターレバーが右斜め上方に突き出している。MTモデルの場合は、見た目はほぼ同一のままレイコックドノーマンビル製のオーバードライブ操作用スイッチとなる。ATには前進だけでもD2、D1、Lの3ポジションがあり、D1は1速から3速までを自動的に選択する通常のDレンジ。D2は2速発進モードの中速走行用。Lはローを意味し、停止からの発進では1速ギアに固定となる。D1、D2レンジでギアが3速にあるときLを選択すると2速にシフトダウンし、緩慢なエンジンブレーキ状態となる。また、走行速度が時速16マイル以下になると1速にシフトダウンし、この場合はエンジンブレーキが最大となる。Mk.Xの初期型には速度計に隣接して「インターミディエイト・スピード・ホールド」スイッチがあり、これは追い越しや登坂の際のシフトダウンをアクセルペダルではなく、電気的に行うものであった。インストルメントパネルのレイアウトはこの年代のジャガー製品、すなわちEタイプやMk.2にほぼ共通したものである。すなわち、ドライバーサイドには速度計と回転計、パッセンジャーサイドにグローブボックス。パネルの中央部にライトスイッチを中心に電流計、燃料計、油圧計、水温計の4個の小径の計器が左右対称に並び、その下にはイグニッションスイッチと、独立したスターターボタン、各種のトグルスイッチやシガーライターが並ぶ。3.8リッター直列6気筒のXKエンジンは、同時期に発表されたEタイプとほぼ同様の仕様だった。ともに余裕の265bhpを誇るが、Eタイプのほぼ2倍の車体重量を考慮して、ジャガーサルーンとしては初めてストレートポート・シリンダーヘッドを採用し、トリプルのSUキャブレターで武装してある。このシリンダーヘッドの改善は、ジャガーの初期にスタンダード社製エンジンのモディファイを行ってジャガー製品の高性能化に貢献した、シリンダーヘッドのスペシャリスト、ハリー・ウェスレイクが率いるウェスレイク社が行った。

エンジン始動の時、スターター音はほとんど聞こえない。磨き込まれたアルミ製ツインカムは小気味よく最初の圧縮行程で目覚めた。砂利を踏みしめながら表の道に出る。Mk.Xは、そのジャガーサルーンとしては初めて四輪独立懸架を採用し、目の粗いタールマカダム舗装や、メンテナンスが行き届いていないBロードなどで、路面の様々な攻撃から乗員を遮断した。新車時には当時このクラスでは一般的だった15インチに代わって、どっしりした7.50-14のダンロップ・ロードスピードRS5クロスプライタイヤを標準装着した。レストアを終えた7868RWはエイボンのラジアルを履いている。

7868RWは物腰柔らかに移動するが、ドライバーが注意深く感覚を研ぎすませば、その滑らかな動きのなかにエッジの効いたXKのフレーバーを聴覚、物理的の両方で見いだすことができる。Mk.Xに乗ると、やはりその大きさを感じるものの、実際には細く繊細なピラーがもたらすパノラマビューゆえに視界は広く、この巨体を操作するドライバーを助けてくれる。ステアリングのレスポンスは遅く、重さは一定して変化を見せず、指先で回すことができるほどだが、軽い"粘性"を感じた。Mk.XのパワーステアリングはMk.IXなど他のモデルにも採用されているバーマン製で、いわゆる初期のパワーステアリングの典型である。低く下がったテールの造詣からトランクが浅いだろうと想像させるが、実際にはフルサイズのスペアホイールを立てて積めるほどに深くて大きい。ミニカーがどれもトランクを開閉式にして、ラゲッジのミニチュアをつけたことも不思議ではない。トランクフロアを落とし込んだことにより、左右の燃料タンクも垂直に設置するレイアウトが可能になった。これら左右のタンクは独立式で繋がっていないため、それぞれに給油口が設けられており、運転席に備えられたスイッチで切り替えたが、この方式はXJのシリーズまで踏襲された。

編集翻訳:小石原耕作 Transcreation:Kosaku KOISHIHARA Words:John Simister Photography:Amy Shore

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事